日本の中小企業の後継者不在率は 50.1%(帝国データバンク 2025年「全国 後継者不在率動向調査」)に達しています。前年(2024年:52.1%)から2.0ポイント低下し7年連続で改善傾向にありますが、依然として10社中5社が「後を継ぐ人が決まっていない」状態にあり、中小企業の経営課題として最大級のテーマです。
背景には複数の要因があります:
このまま後継者不在を放置すると、企業は最終的に 廃業 を選択するしかありません。中小企業庁の試算では、約650万人の雇用と22兆円のGDPが失われる可能性があるとされ、社会全体の課題となっています。
2025年の事業承継動向で最も注目すべき変化は、承継形式の主役交代です。帝国データバンクの2025年速報値では、「内部昇格」が36.1%と最多になり、長年トップだった「同族承継」(32.3%)を上回りました。役員・従業員を後継者として登用するMBO/EBO・第三者承継M&Aといった「脱ファミリー」型の出口が、中小企業承継の主流になりつつあります。
業種別では全業種で60%を下回り、改善傾向が見られます。ただし業種間の差は大きく、同じ「不在率が高い」でも、建設業なら熟練技能の承継、小売業ならEC対応と、打つべき手はまるで違ってきます。
| 業種 | 後継者不在率(2025年) | 傾向 |
|---|---|---|
| 金融・保険業 | 31.4%(最低) | 同族承継・内部昇格が機能 |
| 製造業 | 42.4% | 自動車サプライチェーン支援が奏功 |
| サービス業 | 約50%(平均並み) | 業態によりばらつき |
| 小売業 | 57.0%(高位) | EC化・人口減で承継ニーズ高い |
| 建設業 | 57.3%(最高) | 技能継承の難しさが課題 |
| 不動産業 | 地域差が大きい | 首都圏など承継ニーズの高い地域も |
出典: 帝国データバンク「全国 後継者不在率動向調査(2025年)」(2025年11月公表)
「後継者がいない」と「廃業しかない」の間には、実は4つの選択肢があります。本ガイドでは以下の5つを比較解説します:
近年、後継者不在の中小企業の出口として最も増加しているのは 3. 第三者承継M&A です。事業承継・引継ぎ支援センター(中小企業庁・中小機構)の相談・成約件数も年々最多を更新しています。後継者を社内外から「探す」こと自体が当たり前になり、それを支える政府・金融機関・民間アドバイザーの体制も厚みを増してきました。
子・孫・兄弟姉妹など親族へ株式と経営を引き継ぐ、最も伝統的な方法です。時間をかけて準備できる利点がある一方、実務では株式の集約や先代の影響力の整理でつまずく例が少なくありません。
子・孫が経営の意思を持ち、業界経験・経営能力を備えているケース。経営者が65歳前後で、後継者育成に5〜10年の時間が確保できる場合は最も理想的です。事業承継税制を活用すれば、贈与税・相続税の負担を大幅に軽減できます。
役員(MBO: Management Buyout)または従業員(EBO: Employee Buyout)が、現経営者から株式と経営を引き継ぐ方法です。事業内容・取引先・組織を熟知している人材が経営を引き継ぐため、事業継続性は高い水準が期待できます。
幹部役員が30〜50代で、経営参画意欲と能力があるケース。日本政策金融公庫・地方銀行のMBO融資、中小企業基盤整備機構のファンド出資など、資金調達手段は近年充実しています。事業承継・M&A補助金(専門家活用枠)も活用可能です。
外部の買い手企業(同業・隣接業種・PEファンド・大手企業)に株式譲渡または事業譲渡で会社を売却する方法。後継者不在の解決策として近年最も急成長している選択肢です。
後継者がいない、または親族・社内候補者の経営能力が不足しているケース。特に 事業内容が業界平均以上の収益性を持ち、買い手にとって魅力的 なケースで適しています。中小企業庁の 事業承継・M&A補助金(専門家活用費の2/3〜3/4補助、上限250万〜600万円)を活用すれば、仲介・FA手数料の負担を軽減できます。
| 業種 | EV/EBITDA倍率 | 年買法のれん年数 |
|---|---|---|
| IT・ソフトウェア | 4〜8x | 3〜5年 |
| 製造業 | 3〜6x | 3〜5年 |
| 医療・介護 | 4〜8x | 3〜6年 |
| 建設・不動産 | 2〜5x | 2〜4年 |
| 小売・EC | 2〜6x | 2〜4年 |
| 飲食・サービス | 2〜4x | 1〜3年 |
会社全体ではなく、特定の事業(部門・店舗・ブランド)のみを他社へ譲渡する方法。会社・法人格は残り、その他の事業は経営者が継続することが可能です。
複数事業を展開しており、一部のみ承継・他は売却したい経営者。または不採算事業を切り離して残りの事業を成長させたいケース。M&A戦略の柔軟性を活かせる中堅企業に向いています。
会社を清算・解散して事業を終える方法。後継者不在の最終手段として位置付けられますが、上記4つの選択肢を十分に検討した上で選択すべきです。
廃業を選ぶ前に、必ず 「同業・隣接業種への第三者承継M&Aができないか」 を専門家に相談しましょう。中小企業庁の 事業承継・引継ぎ支援センター(全47都道府県・無料)が一次相談に応じています。
| 選択肢 | 準備期間 | 必要コスト | 難易度 | 事業継続性 | 従業員雇用 | 創業者収入 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1. 親族内承継 | 5〜10年 | 低(贈与税対策のみ) | ★★★(後継者意思要) | ◎ | ◎ | △(贈与・相続) |
| 2. 社内承継 MBO/EBO | 3〜5年 | 中(金融機関調達要) | ★★★★(資金調達難) | ◎ | ◎ | ○(株式買取代金) |
| 3. 第三者承継 M&A | 1〜2年 | 中(仲介費 譲渡額3〜5%) | ★★★(買い手探索) | ○ | ○(条件次第) | ◎(売却対価) |
| 4. 事業譲渡 | 1〜2年 | 中(許認可再取得) | ★★★★(手続き複雑) | ○(一部) | △(転籍同意要) | ○(譲渡対価) |
| 5. 廃業 | 6ヶ月〜1年 | 高(解雇・処分・登記) | ★★(手続き完結) | × | × | ×(処分損のみ) |
選択肢1〜4はいずれも事業を存続させる選択肢です。創業者の引退時期と後継者候補の有無から、最適な選択肢が変わります。
事業承継の準備は、早く動くほど選択肢が広がります。逆に時間の余裕がないと、買い手は「売り急ぎ」を見抜いて値引きの材料にするため、交渉力そのものが目減りしてしまいます。
帝国データバンク2025年「全国 後継者不在率動向調査」の都道府県別データを集計しました。地域差は最大39.8ポイントと前年から拡大しており、地方の事業承継課題の深刻さが続く一方、改善が顕著な県も増えています。
| 順位 | 都道府県 | 後継者不在率(2025) | 前年比 | vs 全国平均(50.1%) | 地域ページ |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 秋田県 | 73.7% | +1.4pt | +23.6pt | 秋田県の事業承継情報 |
| 2 | 島根県 | 64.2% | -2.3pt | +14.1pt | 島根県の事業承継情報 |
| 3 | 北海道 | 63.6% | -2.1pt | +13.5pt | 北海道の事業承継情報 |
| 4 | 高知県 | 63.2% | +3.2pt | +13.1pt | 高知県の事業承継情報 |
| 5 | 鳥取県 | 62.7% | -7.9pt | +12.6pt | 鳥取県の事業承継情報 |
| 6 | 沖縄県 | 61.0% | -4.3pt | +10.9pt | 沖縄県の事業承継情報 |
| 7 | 岩手県 | 50.0% | -4.6pt | -0.1pt | 岩手県の事業承継情報 |
| 7 | 奈良県 | 50.0% | +0.6pt | -0.1pt | 奈良県の事業承継情報 |
| 9 | 青森県 | 47.3% | -10.4pt | -2.8pt | 青森県の事業承継情報 |
| 10 | 和歌山県 | 45.3% | +1.8pt | -4.8pt | 和歌山県の事業承継情報 |
| 11 | 滋賀県 | 43.8% | -2.1pt | -6.3pt | 滋賀県の事業承継情報 |
| 12 | 山形県 | 42.5% | -1.8pt | -7.6pt | 山形県の事業承継情報 |
| 13 | 茨城県 | 41.0% | 0.0pt | -9.1pt | 茨城県の事業承継情報 |
| 14 | 福島県 | 40.5% | -4.6pt | -9.6pt | 福島県の事業承継情報 |
| 15 | 千葉県 | 40.4% | -1.8pt | -9.7pt | 千葉県の事業承継情報 |
| 16 | 鹿児島県 | 37.6% | -3.7pt | -12.5pt | 鹿児島県の事業承継情報 |
| 17 | 三重県 | 33.9% | -0.2pt | -16.2pt | 三重県の事業承継情報 |
出典: 帝国データバンク「全国 後継者不在率動向調査(2025年)」(2025年11月公表)。全47都道府県のデータは 都道府県一覧 の個別ページで確認可能。
2025年の特筆ポイント: 青森県が前年から-10.4ptの大幅改善で全国9位に浮上。鳥取県も-7.9pt改善。一方、秋田県(+1.4pt)・高知県(+3.2pt)・和歌山県(+1.8pt)は悪化。三重県は5年連続全国最低を維持しています。
東北・北海道・山陰・四国・沖縄 など地方ほど不在率が高い傾向があります。これは①若年層の都市部流出 ②地域経済の縮小 ③親族の都市部就業による事業承継忌避 という構造的要因が重なっているためです。
一方、関東・東海・近畿の都市圏 では不在率が比較的低く、後継者候補が見つかりやすい・第三者M&Aの買い手探索が容易な環境があります。
事業承継には、無料で使える公的な相談窓口が複数あります。いきなり仲介会社に費用を払う前に、まずこうした窓口で全体像をつかむのが堅実です。ただし公的窓口が担うのは一次相談・情報提供が中心で、買い手探索や条件交渉の実働までは引き受けません。
中小企業庁・中小機構が運営する公的相談窓口。各都道府県に設置され、事業承継の一次相談・買い手とのマッチング・コーディネーター派遣まで全て無料で対応します。
地元の商工会議所・商工会では、無料の経営相談・専門家派遣(税理士・中小企業診断士等)が提供されています。事業承継の準備段階や個別相談に有用です。市区町村別の窓口情報は 都道府県一覧 から各地域ページで確認できます。
事業承継・M&Aに伴う専門家活用費(仲介手数料・FA費用・DD費用等)や経営革新費用の一部を補助。類型により 上限250万〜600万円。申請にはM&Aアドバイザーや認定支援機関の関与が必要です。
地方銀行・信用金庫・日本政策金融公庫などでは、事業承継ローン・MBO融資・M&A仲介サービスが提供されています。取引銀行への相談は事業承継準備の第一歩として有効です。
事業承継・M&Aの相談先は、無料の公的窓口から、買い手探索や売り手側支援まで担う民間のM&Aアドバイザリーまで幅があります。無料・中立の公的窓口は入口として有効ですが、実際の交渉やデューデリジェンスまで伴走するのは民間の専門家です。段階と目的に応じて使い分けるのが、遠回りに見えて確実です。
本サイト「事業承継M&A調査君(chosakun.com)」は、株式会社KI Strategy が運営しています。同社は、買い手側支援・売り手側支援・デューデリジェンス(BDD/ITDD)・PMI・IM作成・セカンドオピニオン・事業計画策定までM&Aライフサイクル全般のアドバイザリーを提供しています。代表の 今井 健太郎 は大手シンクタンクでの経験を経て2016年に同社を設立、半導体・ソフトウェア・製造業・医療・建設業など幅広い業種でDD・PMI実績を有します。
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