GUIDE · 企業価値算定

企業価値算定の3手法 — 年買法・EV/EBITDA・DCFを徹底比較(業種別マルチプル付き)


中小M&Aの企業価値算定では、年買法(年倍法)/EV/EBITDA倍率法/DCF法の3つが中心。年買法は「時価純資産+営業利益×3〜5年」のシンプルさで中小実務の主役、EV/EBITDA倍率法は業種別マルチプルで相場感の把握、DCF法は理論的に最も正確だが将来予測の主観性が課題となる。本ガイドでは3手法の計算式・実例・業種別マルチプル(IT 4〜8倍、製造 2〜4倍、医療 4〜8倍)・WACC算定のサイズプレミアム・評価額がブレる5つの要因・企業価値を高める実務まで網羅する。
最終更新: 2026-05-12 / 監修: 今井 健太郎(株式会社KI Strategy 代表取締役)

1. 企業価値算定の3つのアプローチ

M&Aにおける企業価値算定は、ファイナンス理論上、以下の 3つのアプローチ に大別されます。中小M&A実務で用いられる主要手法は、いずれかのアプローチに分類されます。

アプローチ考え方代表的な手法中小M&Aでの位置付け
インカムアプローチ 将来の収益・キャッシュフローの現在価値で評価 DCF法、配当還元法 補助的・理論検証用
マーケットアプローチ 類似企業・類似取引の市場価格を参照 EV/EBITDA倍率法、PER倍率法、類似取引比較法 中小M&A実務の主役の一つ
コストアプローチ 純資産の積み上げで評価 純資産法、修正純資産法 下限値・清算価値の参照

このうち、中小M&Aで最も多用されるのは 「年買法(年倍法)」 です。年買法はインカム/マーケット/コストの厳密な分類には収まらず、「コストアプローチ(純資産)+インカムアプローチ(営業利益数年分)の折衷型」として位置づけられる、中小M&A実務独自の手法です。

2. 中小M&A実務での使い分け

中小M&Aでは、以下のように手法を組み合わせて使うのが標準です。

手法計算の手間客観性説得力中小M&Aでの使い方
年買法
(年倍法)
★(簡単) ★★(合意ベース) ★★★(経営者に直感的) 初期検討・売り手希望価格の出発点
EV/EBITDA倍率法 ★★(中程度) ★★★★(業界相場参照) ★★★★(業界相場で説明可) 客観性検証・買い手投資判断
DCF法 ★★★★(複雑) ★★(前提次第) ★★★(前提を共有できれば) シナジー検証・補助的位置付け
純資産法 ★(簡単) ★★★★★(簿価ベース) ★★(収益性無視) 下限値の確認・清算価値

実務では 年買法とEV/EBITDA倍率法の2本立て で算定し、両者のレンジを並べて議論するのが一般的です。DCF法は買い手側の投資判断・シナジー算定で補助的に用いられます。本サイトの無料企業価値査定ツール も、この実務感覚に沿った3手法(年買法・年買法×EBITDA倍率・EBITDA倍率法)の結果を同時表示する設計です。

3. 手法1: 年買法(年倍法)— 中小M&Aで最頻出

計算式

企業価値 = 時価純資産 + 営業利益 × 年数(一般に2〜5年)

具体例:年商5億円・営業利益5,000万円・時価純資産2億円の製造業

CASE 1 — 営業利益×3年(保守的)
時価純資産 2億円 + 営業利益 5,000万円 × 3年
= 2億円 + 1.5億円
企業価値: 3.5億円
CASE 2 — 営業利益×5年(強気)
時価純資産 2億円 + 営業利益 5,000万円 × 5年
= 2億円 + 2.5億円
企業価値: 4.5億円

同じ会社でも年数を3年→5年に変えるだけで 評価額が1億円(28%)アップ します。この年数設定の柔軟性が年買法の使いやすさと同時に主観性のリスクでもあります。

年数の目安(業種・事業特性別)

事業特性年数の目安
業績変動大/参入障壁低2〜3年飲食・小売・建設
業績安定/成熟事業3〜4年製造業・卸売・物流
収益安定/参入障壁中3〜5年医療・介護・教育
成長性高/参入障壁高4〜5年IT・SaaS・専門サービス

営業利益は「正常収益力」で計算する

年買法で使う「営業利益」は、単純な決算書の営業利益ではなく、「正常収益力(Normalized EBIT)」 に調整するのが正しい運用です。

年買法のメリット・デメリット

メリットデメリット
年買法 計算が簡単・経営者に直感的・時価純資産+収益力の両面を見る 年数設定の主観性・ファイナンス理論的根拠なし・成長性を反映しにくい

4. 手法2: EV/EBITDA倍率法 — 業種別マルチプル

計算式

EV(事業価値)= EBITDA × 業種別倍率(マルチプル)
株式価値 = EV + 非事業用資産 − 有利子負債

EBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization:利払前・税引前・償却前利益)は、企業の本業のキャッシュ創出力を表す指標です。減価償却が大きい資本集約型業種でも、企業間比較が容易になる利点があります。

EBITDA = 営業利益 + 減価償却費(簡易計算)

具体例:年商10億円・EBITDA 1.5億円・有利子負債2億円のIT企業

CASE — IT業種、EV/EBITDA倍率 6倍
EV = 1.5億円 × 6倍 = 9億円
株式価値 = 9億円 − 有利子負債 2億円
企業価値(株式価値): 7億円

EV/EBITDA倍率の業種別中央値(2024年 上場企業データ)

業種上場企業 中央値中小M&A 目安
情報・通信(IT/SaaS等)8.9倍4〜8倍
サービス業8.0倍3〜6倍
パルプ・紙6.2倍2〜4倍
鉄鋼5.7倍2〜4倍
輸送用機器(製造)5.6倍2〜4倍
全業種 中央値7.1倍3〜5倍

出典: 主要金融データベース集計値(2024年)。中小M&A目安は当社実務経験ベース。

なぜ中小企業は上場企業より倍率が低いのか

同じ業種でも中小企業の評価倍率が上場企業より低くなる主な理由は:

EV/EBITDA倍率法のメリット・デメリット

メリット 業界相場との比較で客観性が高い・買い手・投資家・金融機関に共通言語として通じる・国際的にも標準
デメリット 類似上場企業の選定で結果が変わる・中小固有のディスカウントが必要・シナジー反映が困難

5. 手法3: DCF法 — 理論的に最も正確

DCF法(Discounted Cash Flow Method)は、対象会社の 将来のフリーキャッシュフロー(FCF)を予測し、WACC(加重平均資本コスト)で現在価値に割り引いて事業価値を算出 する手法です。ファイナンス理論上は最も正確とされ、上場企業の投資判断・M&A・IPO評価で標準的に用いられます。

計算式

事業価値 = Σ FCFₜ / (1 + WACC)ᵗ + TV / (1 + WACC)ⁿ
株式価値 = 事業価値 + 非事業用資産 − 有利子負債

ここで:

DCF法のメリット・デメリット

内容
メリット 対象会社固有の事業性・成長性を直接反映できる・シナジー効果を組み込める・ファイナンス理論的に最も整合的
デメリット 将来予測の主観性が極めて高い(売上成長率1〜2%の差で評価額が数千万円変動)・WACC設定により評価額が大きく動く(割引率1〜2%変動で評価額数十%変化)・中小企業では5〜10年の精緻な事業計画作成が現実的でない
中小M&AでDCF法が主役にならない理由: DCF法は将来5〜10年のキャッシュフロー予測の精度に大きく依存します。上場企業のように四半期決算・IR資料・アナリストレポートで前提共有ができる企業と異なり、中小企業の事業計画は経営者の判断・期待が大きく反映され、保守的見積もりと楽観的見積もりで評価額が2倍以上変わることが珍しくありません。そのため中小M&A実務では、年買法・EV/EBITDA倍率法で得た「相場感」をDCFで「裏付け」する補助的な使い方が現実的です。

6. WACC(加重平均資本コスト)の算出方法

DCF法の割引率として用いられるWACCは、企業の資金調達コストを株主資本と有利子負債の構成比で加重平均した値です。

計算式

WACC = E/(D+E) × rE + D/(D+E) × rD × (1 − Tc)
 E: 株主資本の時価
 D: 有利子負債の時価
 rE: 株主資本コスト
 rD: 負債コスト(借入利率)
 Tc: 実効税率(一般に30%前後)

株主資本コスト(rE)の算出 — CAPM

rE = Rf + β × (Rm − Rf) + サイズプレミアム
 Rf: リスクフリーレート(10年国債利回り等)
 β: 当該銘柄の市場感応度(類似上場銘柄から推計)
 Rm − Rf: マーケットリスクプレミアム(一般に5〜7%)
 サイズプレミアム: 非上場・中小企業に対する追加リスクプレミアム(3〜10%)

中小企業のWACCレンジ

上場企業のWACCは概ね4〜8%程度ですが、中小企業ではサイズプレミアムを加味して WACC 7〜15% が実務的なレンジとなります。

永久成長率(g)の設定

TV(Terminal Value)の計算で用いる永久成長率は、長期的なGDP成長率・インフレ率を参考に 0〜2% の範囲で設定するのが一般的です。永久成長率はWACCを上回ってはいけない(数学的に成立しない)点に注意が必要です。

7. 参考:純資産法(コストアプローチ)

純資産法は「時価純資産=時価資産−時価負債」で企業価値を算出する最もシンプルな手法。事業の収益性は反映されないため、収益事業のM&Aには不向きですが、以下のケースでは有用です。

中小M&A実務では、純資産法を 「下限値」 として位置付け、年買法・EV/EBITDA倍率法・DCF法での評価結果との比較に用いるのが標準的です。「収益力評価が純資産法を下回るなら何かが間違っている」というクロスチェックとして機能します。

8. 業種別マルチプル詳細(9業種)

中小M&Aでの業種別EV/EBITDA倍率および年買法のれん年数の目安をまとめました。実際の評価は個別企業の収益性・成長性・参入障壁等で大きく変動します。

業種 EV/EBITDA倍率 年買法のれん年数 業種特性
IT・ソフトウェア 4〜8倍 3〜5年 SaaSは特に高評価、受託型は低め
製造業 2〜4倍 3〜5年 技術・特許・顧客基盤次第で大きく変動
建設業 2〜5倍 2〜4年 許認可・職人ネットワークが価値の源泉
医療・介護 4〜8倍 3〜6年 制度依存度が高く安定収益、規制リスクも大
小売・EC 2〜6倍 2〜4年 ECは高評価、実店舗型は競争激化で低め
飲食・サービス 2〜4倍 1〜3年 業績変動大・参入障壁低で低評価
物流・運輸 3〜5倍 2〜4年 ドライバー確保力・拠点立地が価値
卸売業 2〜4倍 2〜4年 仕入先・販売先のネットワーク価値
教育・人材 3〜6倍 2〜5年 教育機関は安定、人材は変動大

業種別ページから詳細な業界特性・EV/EBITDA倍率の解説をご覧いただけます。各業種ページでは中小企業のサブセグメント別マルチプルも掲載しています。

9. 評価額がブレる5つの理由

同じ会社でも3手法で算定すると、評価額が30〜50%(場合により2倍以上)のレンジで分散することは珍しくありません。主な原因は以下の5点です。

① 年買法の年数設定

営業利益×3年と×5年では評価額が67%増減します。業種特性・成長性で「妥当な年数」のコンセンサスを買い手・売り手で合意することが重要です。

② EV/EBITDA倍率の参照銘柄選定

類似上場企業を「保守的に選ぶか」「成長著しい銘柄まで含めるか」で倍率が2〜3倍変動します。さらに「中小ディスカウント」(流動性・規模リスク)の幅にも幅があります。

③ DCF法の前提(成長率・WACC)

売上成長率5%と8%、WACC 10%と12%の組合せで、評価額は数十%変動します。特にWACCは1%変動で評価額が数十%動くため、慎重な設定が必要です。

④ 正常収益力の算定基準

役員報酬・退職金・私的経費・関連会社取引等の正規化は、調整方針次第で営業利益が大きく動きます。「どこまでを正常化対象とするか」は買い手・売り手で見解が分かれやすい論点です。

⑤ 非事業用資産・偶発債務の取扱い

事業用と無関係な不動産・有価証券・現金預金の取扱い、簿外債務・退職給付債務・係争中訴訟等の評価減幅で、株式価値ベースの評価が数千万〜数億円動くことがあります。

「評価額をピンポイントで一つに決める」のは現実的ではありません。3手法の結果を並べ、「中央値±20%程度のレンジ」を交渉のスタート地点とし、買い手・売り手の重視ポイント(投資回収期間・成長性・シナジー)を加味して合意点を探るのが実務の現実です。

10. 企業価値を高める7つの実務

M&A検討の1〜3年前から取り組むことで、企業価値(譲渡価額)を確実に押し上げる実務ポイントを整理します。

  1. 正常収益力の見える化 — 役員報酬・節税経費・一時要因を整理し、実態の営業利益・EBITDAを継続的に開示できる体制に
  2. 株主構成のシンプル化 — 少数株主・親族株主の集約、種類株式の整理。100%取得が買い手の標準要望
  3. 契約・許認可・労務の清掃 — CoC条項のある契約の見直し、許認可の最新化、未払残業代等の労務リスク解消
  4. 中期事業計画の数値根拠強化 — 売上・利益計画の前提(顧客別売上、新規開拓計画等)を客観的根拠で裏付け
  5. 主要取引先・キー人材への依存度分散 — 売上の特定取引先依存(30%超は警戒)、キー人材依存の解消
  6. 非事業用資産の整理 — 事業外不動産・関連会社株式等は別途処分または明示的に評価額に反映
  7. バックオフィス・ITシステム整備 — 会計・人事・営業システムが整っているとDDで好印象、PMI後の統合も容易

11. 実務でよく使う組み合わせ:年買法×EV/EBITDA

中小M&A実務でよく用いられる「年買法×EV/EBITDA倍率の複合法」を紹介します。これは 本サイトの査定ツール でも採用している実用的アプローチです。

計算式

企業価値 = 時価純資産 + EBITDA × 業種別倍率

年買法の「営業利益×年数」部分を、「EBITDA×業種別倍率」に置き換えた折衷型です。純資産という客観的な数値ベースを残しつつ、収益力評価部分に業界相場(EV/EBITDA倍率)を反映できる利点があります。

具体例:時価純資産2億円・EBITDA 1億円・IT業種(倍率5倍)

年買法×EV/EBITDA 複合法
時価純資産 2億円 + EBITDA 1億円 × 5倍
= 2億円 + 5億円
企業価値: 7億円

この計算結果と、純粋な年買法(営業利益×3〜5年)の結果、純粋なEV/EBITDA倍率法の結果を並べると、評価レンジの幅が見えてきます。

12. 無料企業価値査定ツール

本サイトでは、業種・売上・営業利益・純資産等を入力すると 3手法の概算評価額が3分で確認できる無料ツール を提供しています。本格的なM&A検討の出発点としてご活用ください。

13. よくある質問(FAQ)

Q.中小M&Aで最も使われる企業価値算定方法は?
中小M&Aで最も広く使われるのは「年買法(年倍法)」です。計算式は「時価純資産+営業利益×3〜5年」とシンプルで、貸借対照表(実態純資産)と損益計算書(営業利益)の2つから計算できるため、中小企業でも数字を作りやすいのが利点です。次いで「EV/EBITDA倍率法」が業種別の相場感把握に使われます。DCF法は理論的に最も正確ですが、将来予測の主観性が高く、中小企業では補助的に用いられる傾向です。実務上は年買法とEV/EBITDA倍率法の2本立てで算定し、複数手法の結果を比較しながら譲渡価額レンジを設定するのが標準的です。
Q.年買法の計算式と適正な年数は?
年買法の計算式は「企業価値 = 時価純資産 + 営業利益 × 年数」で、年数は中小M&A実務では2〜5年が一般的です。営業利益が安定している成熟事業は3〜4年、IT・成長業種は4〜5年、業績変動の大きい業種・事業基盤の弱い事業は2〜3年が目安となります。なお、年買法には厳密なファイナンス理論的根拠はなく、買い手の投資回収期待(3〜5年で回収したい)と売り手の希望価額の合意点として実務的に普及した手法です。営業利益は単純な決算値ではなく、役員報酬・節税目的の経費・一時要因等を調整した「正常収益力(Normalized EBIT)」を使うのが正しい運用です。
Q.EV/EBITDA倍率の業種別相場は?
中小M&AにおけるEV/EBITDA倍率の業種別レンジは、IT/SaaS 4〜8倍、医療/介護 4〜8倍、製造業 2〜4倍、建設/不動産 2〜5倍、小売/EC 2〜6倍、飲食/サービス 2〜4倍、物流 3〜5倍、卸売 2〜4倍、教育 3〜6倍が目安です。上場企業の業種別中央値(情報・通信8.9倍、サービス8.0倍、製造5〜6倍、全業種7.1倍)と比べて中小企業の倍率が低めになるのは、投資回収期間が短い(中小は3〜5年想定、上場は8〜10年)、規模リスク・流動性リスクが高いためです。
Q.DCF法とEV/EBITDA倍率法の違いは?
DCF法(インカムアプローチ)は、対象会社固有の将来キャッシュフローを予測し、WACC(加重平均資本コスト)で現在価値に割り引く「絶対評価」。EV/EBITDA倍率法(マーケットアプローチ)は、同業他社・類似上場企業の市場倍率を参照する「相対評価」です。DCF法は理論的に最も正確ですが、将来予測の主観性が高く、割引率の1〜2%変動で評価額が数十%動くため、中小M&Aでは補助的位置付け。EV/EBITDA倍率法は客観性が高く、業界相場との比較が容易なため、中小M&A実務では年買法とともに主流の算定手法です。両者を組み合わせ、複数手法の結果のレンジで議論するのが実務の標準です。
Q.WACC(加重平均資本コスト)とは?
WACC(Weighted Average Cost of Capital)は、企業の資金調達コストを株主資本と有利子負債の構成比で加重平均した割引率です。計算式は「WACC = 株主資本コスト × 株主資本構成比 + 負債コスト × (1-実効税率) × 負債構成比」。株主資本コストはCAPM(Capital Asset Pricing Model)で「リスクフリーレート + β × マーケットリスクプレミアム」として算定します。中小企業の評価では、上場企業に比べて流動性・規模リスクが高いため、3〜10%の「サイズプレミアム」を加算するのが一般的です。中小M&AのDCF法では、WACCが7〜15%程度のレンジで設定されることが多いです。
Q.3手法で評価額がブレるのは何故ですか?どう調整しますか?
3手法で評価額がブレる主因は、(1)年買法の年数設定(2〜5年で±50%変動)、(2)EV/EBITDA倍率の参照銘柄選定とプレミアム/ディスカウント、(3)DCF法の将来キャッシュフロー予測と割引率(WACC)の前提、(4)正常収益力の算定基準(役員報酬・特別費用の正規化)、(5)非事業用資産の取扱い、です。実務では3手法のレンジを並べ「中央値±20%」程度を交渉レンジとし、買い手・売り手の重視ポイント(投資回収期間・成長性・シナジー)を加味して落としどころを探ります。単一手法に依存せず、複数手法でクロスチェックすることが重要です。
Q.企業価値を高めるためのM&A前の準備は?
M&A前1〜3年の準備で企業価値を高める主要ポイントは、(1)役員報酬・節税経費の正常化(正常収益力の見える化)、(2)株主構成のシンプル化(少数株主の集約)、(3)契約・許認可・労務リスクの清掃(DDで指摘されない状態に)、(4)中期事業計画の数値根拠強化、(5)主要取引先・キー人材への依存度の分散、(6)非事業用資産の整理(事業外不動産・関連会社株式等)、(7)バックオフィス・ITシステム整備、です。これらは年買法でも EV/EBITDAでも DCFでも、すべての評価手法で評価額の押上げ効果があります。
Q.純資産法はM&Aで使えますか?
純資産法(コストアプローチ)は「時価純資産 = 時価資産 − 時価負債」で企業価値を算定する手法。事業の収益性を反映しない「清算価値」に近い評価のため、(1)清算予定企業、(2)持株会社・不動産保有会社、(3)赤字続きの企業、(4)創業間もない企業、では有効ですが、安定的に収益を生む事業会社のM&Aでは過小評価になります。中小M&A実務では、純資産法を「下限」、年買法・EV/EBITDA倍率法・DCF法を「収益力評価」として組み合わせ、譲渡価額の合理性をクロスチェックする使い方が一般的です。
Q.赤字企業でも企業価値は付きますか?
赤字でも企業価値が付くケースは多数あります。(1)技術・特許・許認可・顧客基盤・人材等の無形資産価値、(2)買い手のシナジー(製品ライン補完・地域展開・人材獲得)、(3)非事業用資産(事業用不動産・上場有価証券)、(4)将来回復見込みの一時赤字、(5)税務上のメリット(繰越欠損金の活用、会社法上は引継不可だが事業譲渡では一定要件で活用可)、などが評価対象となります。赤字企業のM&Aでは、年買法・EV/EBITDA倍率法より、買い手シナジーを織り込んだ個別評価(DCF的アプローチ、無形資産の独立評価)が中心となり、譲渡価額は買い手との交渉余地が大きくなります。
Q.無料の企業価値査定ツールはありますか?
はい、本サイトでは無料の「企業価値査定ツール」を提供しています。業種・売上・営業利益・純資産等を入力すると、年買法・EV/EBITDA倍率法・年買法×EBITDA倍率の複合の3手法での概算評価額が3分で確認できます。あくまで業界相場ベースの概算値ですが、本格的なM&A検討の出発点として有用です。詳細評価(簿外債務の調整、正常収益力の算定、シナジー反映等)は弁護士・税理士・M&Aアドバイザーとの個別相談が必要です。
今井 健太郎
監修
今井 健太郎(株式会社KI Strategy 代表取締役)
早稲田大学政治経済学部卒。野村総合研究所を経て、2016年に株式会社KI Strategyを設立。M&Aアドバイザリー、デューデリジェンス(BDD/ITDD)、PMI支援を専門とする。情報経営イノベーション専門職大学(iU)客員教授。プロフィール詳細 →

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