公的・無料の相談窓口ガイド

中小企業はどこに相談すればいい?事業承継・M&A・経営の無料公的窓口を使い分ける


「誰かに相談したいが、どこに相談すればいいか分からない」——そんな経営者の出発点は、国や中小機構が運営する無料の公的窓口です。事業承継・引継ぎ支援センター、よろず支援拠点、商工会議所・商工会、中小機構、地域金融機関の役割を整理し、「目的→最適な窓口」を早見表で解説します。
公開: 2026-08-16 / 監修: 今井 健太郎(株式会社KI Strategy 代表取締役)

中小企業の相談は「どこに」すればいい?まず無料の公的窓口から

事業承継、M&Aによる会社の譲渡・譲受、後継者不在、売上や資金繰りの悩み——経営者が「誰かに相談したい」と思ったとき、最初の壁になるのが「そもそも、どこに相談すればいいのか分からない」という問題です。いきなり民間のM&A仲介会社やコンサルティング会社に連絡するのは費用面で不安が残りますし、知人の紹介だけに頼ると視野が狭くなりがちです。

結論からいえば、多くの経営者にとっての出発点は「公的・無料の相談窓口」です。国や独立行政法人が運営する窓口は、相談自体が無料で、秘密も守られます。まずここで「自社は何を、どの順番で考えるべきか」という全体像を整理し、専門特化が必要になった段階で初めて民間の専門家(FA・コンサル等)に進むのが、コストを抑えつつ失敗を避ける王道の流れです。

本記事では、中小企業が使える代表的な5つの公的・無料窓口——①事業承継・引継ぎ支援センター ②よろず支援拠点 ③商工会議所・商工会 ④中小企業基盤整備機構(中小機構) ⑤地域金融機関——を取り上げ、それぞれの役割と「目的別の使い分け」を早見表で整理します。なお、民間も含めた6カテゴリ(仲介・FA・銀行・税理士・公的・プラットフォーム)の比較は 事業承継・M&Aの相談先6種類の比較 で詳しく扱っています。本記事は公的・無料窓口に限定して解説します。

目的別 早見表:あなたの悩みは「どこ」に相談すべきか

細かい説明に入る前に、まず全体像をつかんでください。下表は「相談したい目的」から「最適な公的窓口」を引く早見表です。多くのケースでは複数の窓口が関係しますが、最初に当たるべき窓口(◎)を太字で示しています。

相談したい目的最初に当たる窓口(◎)あわせて使える窓口費用
後継者がいない/事業承継の進め方事業承継・引継ぎ支援センター地域金融機関・商工会議所/商工会無料
会社・事業をM&Aで譲渡したい事業承継・引継ぎ支援センター地域金融機関無料
後継者として会社を譲り受けたい(独立・創業含む)事業承継・引継ぎ支援センター(後継者人材バンク)よろず支援拠点無料
売上拡大・販路開拓・経営改善よろず支援拠点商工会議所/商工会無料
資金繰り・融資・補助金の相談よろず支援拠点/商工会議所・商工会地域金融機関無料
創業・起業の準備よろず支援拠点/商工会議所・商工会無料
日常的な記帳・税務・専門家派遣商工会議所・商工会よろず支援拠点無料〜低額
共済・ファンド・経営者研修などの制度活用中小機構各全国本部経由の窓口制度により異なる

大まかには、「事業承継・M&Aなら事業承継・引継ぎ支援センター」「経営課題全般ならよろず支援拠点」「地域密着の日常相談なら商工会議所・商工会」と覚えておくと迷いません。以下、それぞれの窓口を順に見ていきます。

① 事業承継・引継ぎ支援センター(事業承継・M&Aの専門窓口)

事業承継・M&Aを相談するなら、まずここです。事業承継・引継ぎ支援センターは、全国47都道府県すべてに設置された公的相談窓口で、相談は無料秘密は厳守されます。親族内承継を扱う「事業承継ネットワーク」と、第三者へのM&Aを扱う「事業引継ぎ支援センター」が令和3年(2021年)4月に統合され、現在の体制になりました。

何を相談できるか

とりわけ、第三者承継(M&A)のマッチング機能後継者人材バンクを公的・無料で扱う点が、このセンターの最大の特徴です。経営者が「廃業しかないのでは」と思い込んでいるケースでも、まずここに相談することで譲渡・引き継ぎという選択肢が見えてくることが少なくありません。後継者不在をめぐる選択肢の全体像は 後継者不在の解決方法 も参照してください。

運営体制と実績

各都道府県のセンターを束ねる全国本部の役割は、独立行政法人 中小企業基盤整備機構(中小機構)が「中小企業事業承継・引継ぎ支援全国本部」として担っています。中小企業庁の施策として整備された、れっきとした国の支援インフラです。

実績も着実に伸びています。中小機構の公表によると、令和6年度(2024年度)の相談者数は23,540者、第三者承継(M&A)の成約件数は2,132件で過去最高を更新し、開設以来の累計成約は12,306件に達しました。後継者人材バンクの成約も106件で過去最高となっています。公的窓口でありながら、M&Aの実際の成約まで支援している点は押さえておきたいポイントです(中小機構・令和6年度実績、2025年5月公表)。

こんな人はまずセンターへ:「後継者がいない」「会社をたたむか、誰かに譲るか迷っている」「M&Aに興味はあるが、いきなり仲介会社に費用を払うのは不安」——この段階の相談先として最適です。無料で全体像を整理し、必要に応じて登録された民間の支援機関へとつないでくれます。

② よろず支援拠点(経営課題全般の「何でも相談所」)

よろず支援拠点は、国が全国47都道府県に設置した無料の経営相談所です。最大の特徴は、相談に回数制限がなく「何度でも無料」で利用できること。1回あたり概ね1時間程度で、オンライン相談に対応している拠点も増えています。

何を相談できるか

「よろず(万)」の名のとおり、経営上のあらゆる相談が対象です。具体的には次のようなテーマが典型例です。

事業承継・引継ぎ支援センターが「事業承継・M&Aの専門窓口」だとすれば、よろず支援拠点は経営の総合相談所という位置づけです。「承継以前に、まず足元の業績や資金繰りを立て直したい」「漠然とした不安を整理したい」という段階では、回数無制限のよろず支援拠点が入口として使いやすいでしょう。運営面では、中小機構が「よろず支援拠点全国本部」として各拠点を支援しています。

センターとの使い分け:「承継・M&Aのことが明確にテーマ」なら事業承継・引継ぎ支援センター、「経営全般の悩みを何度でも壁打ちしたい」ならよろず支援拠点。両方を併用しても構いません。

③ 商工会議所・商工会(地域密着の日常的な相談窓口)

商工会議所・商工会は、地域に根ざした最も身近な経営相談の窓口です。両者は名前が似ていますが、根拠法と主な設置エリアが異なります。

項目商工会議所商工会
根拠法商工会議所法商工会法
主な設置エリア原則として市の区域主として町村の区域
中心となる事業経営相談・政策提言など幅広い経済活動経営改善普及事業(小規模事業者支援が中心)

ざっくりいえば、市部なら商工会議所、町村部なら商工会が地域を担当します。どちらも会員・非会員を問わず経営相談に応じており、記帳・税務・補助金申請のサポートから、より専門的な課題への専門家派遣制度(エキスパートバンク等)まで提供しています。エキスパートバンクでは、弁護士・税理士・公認会計士・中小企業診断士といった専門家を、無料または低額の負担で事業所へ派遣してもらえます(原則1テーマあたりの派遣回数に上限あり。条件は実施主体により異なります)。

事業承継についても、地域の商工会議所・商工会は初期相談の入口となり、必要に応じて事業承継・引継ぎ支援センターや地域金融機関へとつなぐハブの役割を果たします。「まず顔の見える地元の窓口に話を聞いてもらいたい」というニーズに向いています。

④ 中小企業基盤整備機構(中小機構)— 公的支援の土台をつくる存在

中小機構は、ここまで挙げた窓口の背後を支える国の政策実施機関です。経営者が直接「中小機構に相談」というより、各種の制度・全国本部を通じて間接的にお世話になることが多い組織ですが、その役割を知っておくと公的支援の地図が立体的に見えてきます。

つまり中小機構は、個別相談の「窓口」というより、公的支援の制度設計・運営母体と理解するとよいでしょう。共済やファンド、研修といった制度を活用したい場合に、直接の検討先になります。

⑤ 地域金融機関(取引履歴を活かした承継・M&A支援)

普段から取引のある地方銀行・信用金庫・信用組合も、事業承継・M&Aの重要な相談先です。公的窓口ではありませんが、地域に密着し、自社の財務状況や取引履歴を把握しているという強みがあります。相談料の扱いは金融機関により異なりますが、初期相談に無料で応じるケースが一般的です。

主な支援内容

地域金融機関は事業承継・引継ぎ支援センターと連携し、案件の取次ぎや地域の事業承継ネットワークの一翼を担っています。「メインバンクにまず相談する」という選択肢は、資金面まで見据えた現実的な入口です。ただし、買い手の選択肢を金融機関のネットワーク内に限定しないためにも、公的窓口や民間FAと併用し、複数のチャネルから候補を探すのが望ましいでしょう。

公的窓口で全体像を整理し、必要なら専門家へ

5つの窓口を見てきましたが、賢い進め方は「まず無料の公的窓口で全体像を整理し、専門特化が必要な領域だけ民間の専門家に依頼する」という二段構えです。

  1. 第1段階:公的・無料窓口で全体像を把握——自社の現状(財務・株主構成・後継者の有無)を整理し、親族内承継/社内承継/第三者M&A/廃業などの選択肢を比較する。事業承継・引継ぎ支援センターやよろず支援拠点が中心。
  2. 第2段階:必要に応じて専門家へ——本格的な買い手探索、譲渡条件の交渉、企業価値の精緻な評価、デューデリジェンス(DD)やPMI(統合作業)など、専門性とリソースが要る領域は、民間のFA(フィナンシャル・アドバイザー)やコンサルティング会社に委託する。

公的窓口は無料で中立という大きな利点がある一方、順番待ちや担当者の専門領域による限界もあります。なお、M&A支援機関登録制度への登録は国への届出であり、登録の有無そのものが実務の品質を保証するわけではありません。実績・利益相反の有無・売り手専任かどうかで個別に見極めることが大切です。一方、民間の専門家は費用がかかる代わりに、専任で深く伴走してくれます。どちらが優れているという話ではなく、段階と目的に応じて使い分けるのが要点です。民間業者(仲介・FA・コンサル・プラットフォーム等)の種類ごとの比較・選び方は 事業承継・M&Aの相談先6種類の比較 にまとめています。

地域ごとの窓口を探すには

当サイトでは、全国1,746市区町村のページで、各地域の事業承継・引継ぎ支援センターなど公的窓口の情報を掲載しています。お住まいの地域の窓口を探す際は 都道府県から探す からたどってください。地域の支援機関や専門家の情報もあわせて確認できます。

補足:公的窓口の先で、売り手側の専門支援が必要になったら

本記事は公的・無料窓口の使い分けを主眼としていますが、第2段階として民間の専門支援が必要になった場合の選択肢にも触れておきます。当サイトを運営する株式会社KI Strategyは独立系コンサルティング会社で、売り手側のアドバイザリーをはじめとする事業承継・M&A支援を提供しています。代表は大手シンクタンク出身です。

「公的窓口で全体像は整理できたが、譲渡に向けて専任で伴走してほしい」という段階に至ったら、売り手側アドバイザリー も選択肢の一つとしてご検討ください。まずは無料の公的窓口で相談を始めることを、改めておすすめします。

よくある質問(FAQ)

Q.中小企業の経営相談は、まずどこにすればいいですか?
目的によります。事業承継・M&Aなら「事業承継・引継ぎ支援センター」、売上・資金繰り・創業など経営全般なら「よろず支援拠点」、地域密着の日常相談なら地元の「商工会議所・商工会」が最初の窓口です。いずれも相談は無料です。
Q.事業承継・引継ぎ支援センターは本当に無料ですか?秘密は守られますか?
はい。全国47都道府県すべてに設置された公的窓口で、相談は無料、秘密は厳守されます。中小機構が全国本部として運営する国の支援インフラです。
Q.よろず支援拠点は何度でも相談できますか?
できます。国が設置した無料の経営相談所で、回数制限なく「何度でも無料」で利用できます。1回あたり概ね1時間程度で、オンライン相談に対応する拠点もあります。
Q.M&Aの相談を公的窓口で無料でできますか?
できます。事業承継・引継ぎ支援センターは第三者承継(M&A)のマッチングを無料で扱う公的窓口です。中小機構の公表によれば、令和6年度のM&A成約件数は2,132件と過去最高を更新しています。本格的な買い手探索や条件交渉まで委ねたい場合は、民間のFA・仲介の活用を検討します。
Q.商工会議所と商工会は何が違いますか?
根拠法と設置エリアが異なり、原則として市の区域は商工会議所、主として町村の区域は商工会が担当します。どちらも経営相談に応じ、専門家派遣制度(エキスパートバンク)などを提供します。
Q.後継者がいませんが、廃業するしかないのでしょうか?
いいえ。事業承継・引継ぎ支援センターでは、第三者承継(M&A)や「後継者人材バンク」によるマッチングを無料で相談できます。まず相談することで、譲渡や引き継ぎという選択肢が見えてくることが少なくありません。
Q.中小機構には個人で相談に行けますか?
中小機構は事業承継・引継ぎ支援全国本部やよろず支援拠点全国本部を運営する母体で、個別相談は主に各窓口を通じて行います。共済(小規模企業共済等)・ファンド・経営者研修といった制度の活用は中小機構が直接の検討先になります。
Q.公的窓口と民間の専門家、どちらに相談すべきですか?
段階で使い分けます。まず無料の公的窓口で全体像と選択肢を整理し、本格的な買い手探索・条件交渉・DD/PMIなど専門性とリソースが要る領域は民間のFA・コンサルに委託するのが王道です。民間業者の種類別の比較は、本文中のリンク「事業承継・M&Aの相談先6種類の比較」をご覧ください。
今井 健太郎
監修
今井 健太郎(株式会社KI Strategy 代表取締役)
早稲田大学政治経済学部卒。大手シンクタンクを経て、2016年に株式会社KI Strategyを設立。M&Aアドバイザリー、デューデリジェンス(BDD/ITDD)、PMI支援を専門とする。情報経営イノベーション専門職大学(iU)客員教授。プロフィール詳細 →

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