M&Aプラットフォーム(M&Aマッチングサイト)とは、売り手・買い手が自らオンラインで相手を探し、交渉も当事者主体で進めるDIY型のM&A手段です。サイト上に匿名の譲渡案件(ノンネーム)が並び、買い手が興味を持った案件に交渉リクエストを送り、当事者同士がメッセージや面談を重ねて成約を目指します。人的アドバイザーを介さない(または任意で付ける)点が、仲介・FAとの根本的な違いです。
M&Aの相手探し・実行を支援する事業者は、おおむね次の3類型に整理できます。費用構造がまったく異なるため、まず全体像を押さえておきましょう。
| 類型 | 立ち位置 | 費用構造の中心 | 人的アドバイザー |
|---|---|---|---|
| PF型(マッチングサイト) 本記事の対象 |
売り手・買い手が自ら相手を探すDIY型。運営は「場」を提供 | 売り手はほぼ無料/買い手が成約時に数%+最低手数料、または買い手の月額サブスク。レーマン方式の高額成功報酬は基本かからない | 原則なし(任意で外部専門家を付けられる) |
| 仲介型 | 売り手・買い手の間に立つ(双方代理) | 双方から成功報酬(レーマン方式)。中小向けは最低手数料数百万円〜、着手金・中間金が乗る場合も | あり(専任担当が伴走) |
| FA型 | 売り手か買い手の一方の専任代理人(片側代理) | 依頼者側からのみ報酬を受け取る | あり(専任担当が伴走) |
PFが向くのは、おおむね小規模でスキームがシンプルな案件です。譲渡額が数百万〜数千万円規模で、自社の財務がクリーンで、社内にM&Aの論点を読める人材がいる場合、PFのコストメリット(売り手ほぼ無料・買い手も仲介より安い傾向)は大きく効きます。逆に、規模が大きい・株主構成や許認可・契約が複雑・簿外債務の懸念があるといった案件では、当事者だけで進めると不利な条件や事後トラブルに直結しやすく、PF自力では荷が重くなりがちです。
なお本記事はPF(マッチングサイト)の比較に集中します。仲介とFA、あるいは公的機関・銀行・税理士を含む「人的アドバイザーの類型比較」は、別記事の M&A仲介 vs FA 完全比較 と 事業承継・M&Aの相談先 完全比較(6カテゴリ) で詳述しているため、人的支援を検討する段階ではそちらを参照してください。手数料の相場やレーマン方式の仕組みは M&A手数料の相場とレーマン方式 にまとめています。
国内のM&Aプラットフォームで知名度・実績ともに上位とされるのが、M&Aサクシード(Visionalグループ)・バトンズ(日本M&Aセンターグループ発)・トランビの3社です。まず全体像を一覧で比較し、各社の詳細は後続の章で解説します。
| 比較項目 | M&Aサクシード | バトンズ | トランビ |
|---|---|---|---|
| 運営・系譜 | Visionalグループ(東証プライム上場) | 日本M&Aセンターグループ発(2026年4月 東証グロース上場)。上場後の親会社持株は約27% | 2011年開始、国内最初のM&Aプラットフォーム |
| 売り手の費用 | 無料(登録・成約とも売り手手数料なし。完全成功報酬制) | 基本無料(着手金・月額・中間金・成約手数料なし。有償サポートは任意) | 無料(全プランで成約手数料なし。無料の登録サポートあり。所定期限内の成約報告が条件) |
| 買い手の費用 | 成約時に譲渡金額の 2.0%(無料プラン) | 成約時システム利用料 成約価格の 2%(税込2.2%)。別途、任意の月額プレミアム会員あり | 成約手数料は買い手も無料。収益源は買い手の月額サブスク(税込1,078〜21,780円/月) |
| 買い手の最低手数料 | 無料プランは最低 200万円 | 段階制:1,000万円未満 税込38.5万円/1,000万円以上 税込77万円/5,000万円以上 税込165万円 | 成約手数料自体が無料のため設定なし(=月額サブスクが実質コスト) |
| 着手金・月額 | 売り手・買い手とも着手金・月額・中間金は無料(完全成功報酬) | 基本の着手金・月額は無料(買い手は任意の月額プレミアム会員あり) | 着手金・成約手数料なし。買い手のみ月額課金(プレミアムは6カ月単位・途中解約不可) |
| 審査・参加対象 | 法人限定・審査制。譲受候補も審査通過企業のみ。匿名掲載。3社中もっとも厳格 | 本人確認・案件審査を重視(数時間〜1営業日程度)。個人の参加可 | 事務局審査を経て匿名公開。個人・個人事業主の参加に積極的 |
| 登録規模(時点付き) | 審査通過済み(利用中)譲受候補企業10,600社以上・累計譲渡案件20,000件超・掲載中約4,000件(2026年2月時点・公式発表) | 会員約35.8万人・累計成約3,315件(2026年2月末)。国内最大級 | 登録ユーザー数20万者突破(2025年3月・公式PR)。常時概ね2,000件以上の案件(2025年時点) |
| 得意な領域 | 法人・審査制で相手の質が相対的に安定。中堅〜やや規模のある案件向き | 案件数・会員数で国内最大級。小規模・個人M&Aに最も厚い | スモール/個人M&A・継業に厚い。成約手数料ゼロのサブスク型 |
もう一つ重要な注意点として、各社が公表する「成約」件数は定義(譲渡完了か基本合意か等)が異なる可能性があり、単純な件数比較には向きません。本記事でも件数は「同一基準ではない前提」で、規模感の目安として扱っています。
M&Aサクシード(旧ビズリーチ・サクシード)は、東証プライム上場のVisionalグループが運営するM&Aプラットフォームです。最大の特徴は法人限定・審査制で、信頼性の確認できない企業・個人の登録を排除している点にあります。譲受候補も審査を通過した企業のみが参加でき、社名は売り手が承諾するまで非開示の匿名掲載です。3類型の中で審査がもっとも厳格で、相手の質が相対的に安定するとされます。
売り手は登録・成約とも無料で、完全成功報酬制です。買い手は成約時に譲渡金額の 2.0%(無料プラン)を支払い、無料プランの最低手数料は200万円、着手金・中間金は不要です。買い手の無料プランは契約期間6カ月の自動更新で、交渉リクエスト枠(無料プランで20通程度との記述)が設定されています。なお買い手の有料プラン利用時は、公式の料金解説ページによれば料率1.5%・最低150万円に低減し、契約期間12カ月・交渉リクエスト枠の拡大(60通程度)といった差異があります(プラン詳細・最新料率は改定頻度が高いため各公式で要確認)。
公式発表(2026年2月時点)によれば、審査を通過し利用中の譲受候補企業は10,600社以上、累計譲渡案件は20,000件超、掲載中案件は約4,000件とされています。月間新規登録は200件以上(公式PR)。直接マッチング型で、経営者自身による直接利用が多いとされます(利用者属性の比率は公式要確認)。さらに新しい最新値は別途各公式でご確認ください。
バトンズ(BATONZ)は日本M&Aセンターグループ発で、2026年4月に東証グロースへ上場したM&Aプラットフォームです(上場により親会社の持株比率は約27%へ低下しています)。案件数・会員数で国内最大級であり、小規模・スモールM&A/個人M&Aにもっとも厚いのが特徴です。本人確認・案件審査を重視しており、売り手は本人確認書類+名刺、案件公開には所有確認書類が必須、買い手も本人確認書類提出後にマッチング可能になります(審査は数時間〜1営業日程度)。M&Aサクシードのような法人限定ではなく、個人の参加もできます。
売り手は着手金・月額・中間金・成約手数料いずれも基本無料で、有償のサポートサービスは任意のオプションです。サポートサービス(成約報酬制)は500万円未満で55万円〜、プレミアムサポートは1,000万円未満で220万円〜の段階制(いずれも税込・利用は任意)。買い手は成約時システム利用料が成約価格の2%(税込2.2%)で、最低手数料は成約価額帯で段階制になっています。
| 成約価額帯 | 買い手の最低手数料(税込) |
|---|---|
| 1,000万円未満 | 38.5万円 |
| 1,000万円以上 | 77万円 |
| 5,000万円以上 | 165万円 |
このほか買い手向けの月額プレミアム会員(個人5,390円/月・法人10,780円/月・法人プラス32,780円/月+入会金11万円、いずれも税込)があります。3社の中で、買い手の手数料負担が明確に発生する側と理解しておくとよいでしょう。
公式インフォグラフィック(年度末概算・日次更新)によれば、会員登録数は約36万人、買い手利用者は約31万者、譲渡案件累計は約4.8万件とされます(日次更新のため最新値は公式インフォグラフィックを参照)(いずれも変動する旨が明記されているため「約」「概ね」で扱います)。累計成約は上場前後のPRで3,000件超、2026年2月末で3,315件との発表があります。
トランビ(TRANBI)は2011年開始の、国内で最初のM&Aプラットフォームです。最大の特徴は成約手数料が売り手・買い手とも無料で、買い手の月額サブスクで収益化する第3のモデルである点です。法人限定ではなく、個人・個人事業主の参加に積極的で、スモール/個人M&A・継業(事業承継型の独立)に厚いプラットフォームです。売り手が登録した案件は事務局の審査を経て匿名で一般公開されます。
売り手は全プランで成約手数料無料で、売り手支援担当者による無料の登録サポートもあります(ただし所定期限内の成約報告が条件。報告遅延・成約価額の過少申告時は、規約上の手数料増額や違約金・遅延損害金が生じ得る点には留意してください)。買い手も成約手数料は無料で、コストは月額サブスクに集約されます。プレミアムメニュー(6カ月契約)はベーシック 税込4,378円/月(〜500万円規模)、ビジネス 税込10,780円/月(〜3,000万円)、エンタープライズ 税込21,780円/月(上限なし)。学習目的のエントリーは税込1,078円/月(1カ月・交渉不可)です。プレミアムは6カ月単位で途中解約不可・自動更新、支払いはクレジットカードのみという点に注意してください。交渉できる案件規模は契約プランの上限で制御されます。
2025年3月に登録ユーザー数20万者を突破(2011年開始から約14年)。掲載案件は常時概ね2,000件以上(2025年時点の第三者調査値で、件数は公式要確認)。公式統計ページは日次更新です。
後継者不足を背景に、数百万〜数千万円規模の小規模・個人M&A(事業承継型の独立=継業を含む)が拡大しています。トランビは2025年3月に20万者、バトンズは会員約35万人・累計成約3,000件超で上場(2026年4月)と、PF経由のスモールM&Aには一定の厚みが生まれています。後継者不在の根本的な背景と選択肢は 後継者不在の解決策 も参照してください。
自社がいくらで売れそうかの初期目線は、無料の企業価値査定(3分)で当たりを付けてからPFに臨むと、買い手との価格交渉で主導権を握りやすくなります。
PFを自力で使いこなせるか、それとも専門家(FA・コンサル)を併用すべきかは、会社規模・案件の複雑度・社内体制の3軸で分かれます。以下のチェックに当てはまる数で、おおまかな適合を判断してください。あくまで目安であり、最終判断は個別事情によります。
実務的には「PFか専門家か」の二択ではなく、PFで相手探しの裾野を広げつつ、価値評価・DD・契約・PMIといった効きどころだけ片側専任の専門家に伴走してもらう併用型が、中小・スモールM&Aでは合理的なケースが多くあります。自力だけでは不利な条件や事後トラブルを抱え込みやすく、フルの仲介・FAに丸投げするとコストがかさむ——その中間を取る発想です。なお片側代理(FA)の利益相反や料金体系の詳細は M&A仲介 vs FA 完全比較 を参照してください。
PFは費用面のメリットが大きい一方、当事者主体で進めるがゆえの固有のリスクがあります。とくに以下の6点は、契約前に必ず理解しておきましょう。
審査の緩いPFでは、冷やかし・資力不足の買い手や、財務が脆弱な売り手が混在しやすくなります。審査が厳格なほど相手の質は安定しますが、その分裾野は狭くなる——というトレードオフがあります(審査の厳格度は本記事の比較表を参照)。なお、審査の厳格度は質の優劣を断定するものではなく、あくまで相対的な傾向として捉えてください。
価格交渉、表明保証、簿外債務・偶発債務の発見、契約書作成、買収後のPMI設計まで、すべて当事者が自前で担います。専門家不在のまま進めると、不利な条件で合意してしまったり、引き渡し後に簿外債務が表面化して事後トラブルになったりするリスクが高まります。
買い手にとっては、小型案件ほど料率より最低手数料が効きます。例えば最低手数料が税込38.5万円のPFで300万円の案件を買うと、料率2.2%なら6.6万円のはずが、実際は最低額が適用され実質負担率は約12.8%に跳ね上がります(このPFの場合、成約価額がおおむね1,750万円=38.5万円÷2.2%を下回ると最低手数料が効き始め、価額が小さいほど実質負担率が上がる計算です)。「料率2%だから安い」と料率だけ見て判断せず、自分の取引額で最低手数料・月額サブスクのどれが効くかを必ず試算してください。なお、これは買い手側のコスト論ですが、売り手にとっても無関係ではありません。買い手の手数料負担が重いほど、買い手の提示価格や交渉余力に影響しうるため、売り手も買い手側のコスト構造を理解しておくと価格交渉で読みが利きます。
匿名掲載でも、業種・地域・規模・財務数値の組み合わせから案件が特定されることがあります。情報が漏れれば、従業員の動揺・取引先や金融機関への伝わり方など、本業に影響しかねません。何をどの段階で開示するかの設計が重要です。
PFによっては、PF経由で知り合った相手とPFの外で成約しても手数料義務や報告義務が残る規約を設けています。これは仲介契約のテール条項(契約終了後一定期間の成功報酬請求権)とは法的構成が異なりますが、趣旨が似た直接取引制限・成約報告義務・違約金条項です。条項の有無・射程・有効期間はPFごとに大きく異なるため、利用規約の該当条項を必ず確認してください。例えばトランビの利用規約では、虚偽の登録や実質的に同一ユーザーによる重複案件登録など運営を妨げる行為に違約金100万円、成約報告の遅延・過少申告には手数料増額や遅延損害金が定められています(条文・金額は改定され得るため最新は公式要確認)。手数料を回避しようとPF外で取引すると規約違反になり得る点に注意が必要です。
露出を増やすために複数PFへ同時掲載すると、同じ案件が別条件で出回って買い手に不信感を与えたり、各PFの直接取引制限や報告義務が複雑に絡み合ったりすることがあります。掛け持ちする場合は、掲載条件と各PFの規約の整合を取っておく必要があります。
これらの落とし穴は、規模が大きい・スキームが複雑・社内に専門人材がいない場合ほど深刻になります。裏を返せば、自社で論点を読み切れる小規模・シンプルな案件ならPF自力でも十分に戦えますが、論点が増えるほど「要所だけ専門家に守ってもらう」併用の費用対効果が高まる、ということです。
当サイト「事業承継M&A調査君」を運営する株式会社KI Strategyは、仲介でもPF運営でもない独立系コンサルティング会社です。M&Aアドバイザリーに加え、DD・PMI・IM(企業概要書)作成・事業計画策定までを一気通貫で提供し、売り手・買い手の双方代理は行いません。
PFを運営しておらず、特定のプラットフォームを売りたい立場にもないからこそ、本記事のように3社のプラットフォームを横並びで中立的に比較できます。第7章・第8章で見た「PF自力では荷が重い」効きどころ——企業価値の目線合わせ、IM作成、価格交渉、DD(簿外債務・偶発債務の精査)、契約(表明保証)、PMI——を、売り手側の片側専任として伴走できる点が、PF運営者や仲介とは異なる立ち位置です。
具体的には、次のような併用が現実的です。
「PF自力で進めたいが、要所だけはプロに守ってほしい」という売り手には、まず無料の企業価値査定で目線を固め、必要に応じて売り手側M&Aアドバイザリーを併用する進め方をおすすめします。
事業承継・会社売却・M&Aの最適プロセスをご提案します。売り手側支援・買い手側支援・DD・PMIまで独立系コンサルティング会社として一気通貫。DD・PMI実務は姉妹サイトDD-AXで深掘り対応。
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