GLOSSARY · バリュエーション

企業価値・評価 用語集 — 29語を実務例付きで解説


中小M&Aの企業価値算定で用いられる用語を、計算式とともに整理します。詳細な手法解説は企業価値算定の3手法もご参照ください。

最終更新: 2026-05-13 / 監修: 今井 健太郎(株式会社KI Strategy 代表取締役)

EV(事業価値・企業価値)

いーぶい / Enterprise Value

事業全体の価値を示す指標。計算式は「EV = 株式時価総額 + 有利子負債 − 現預金 − 非事業用資産」。株主・債権者の双方が請求できる価値の合計を示し、EV/EBITDA倍率法等の中核指標として用いられる。

「同業上場企業の中央値EV/EBITDA 6倍を参照に、本案件のEVを算定」。

EBITDA

いーびっとだー / Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization

利払前・税引前・償却前利益。簡易計算では「営業利益 + 減価償却費」。設備投資の大小や資本構成・税制の違いを除いた本業のキャッシュ創出力を示す指標で、業種・規模が異なる企業間の比較を容易にする。

「製造業A社のEBITDAマージン12%は業界平均より高水準」。

EV/EBITDA倍率

いーぶい・いーびっとだーばいりつ

EVをEBITDAで除した倍率。事業価値が年間EBITDAの何倍に評価されているかを示し、簡易的な投資回収期間の代理指標としても用いられる。業種別レンジは中小M&Aで2〜8倍程度(IT・医療は高め、製造・飲食は低め)、上場全業種中央値は約7倍(2024年データ)。

「ITサービスのEV/EBITDA倍率は中小M&Aで4〜8倍が目安」。

年買法(年倍法)

ねんばいほう

「企業価値 = 時価純資産 + 営業利益 × 年数(中小M&A実務で2〜5年)」で算定する中小M&A特有の手法。シンプルで経営者に直感的、貸借対照表と損益計算書から計算可能。ファイナンス理論的根拠は薄く、買い手の投資回収期待と売り手の希望価額の合意点として実務的に普及。

「営業利益5千万円・時価純資産2億円のサービス業を年買法で4億円と試算(年数3年)」。

DCF法

でぃーしーえふほう / Discounted Cash Flow Method

対象会社の将来フリーキャッシュフロー(FCF)を予測し、WACC(加重平均資本コスト)で現在価値に割り引いて事業価値を算定する手法。理論的に最も正確とされるが、将来予測の主観性が高く、割引率1〜2%の変動で評価額が数十%動くため、中小M&Aでは補助的位置付け。

「DCFで予測5年+ターミナルバリュー、WACC 10%で算定」。

WACC(加重平均資本コスト)

わっく / Weighted Average Cost of Capital

債権者と株主の要求利回りを資本構成比で加重平均した割引率。計算式は「WACC = E/(D+E)×rE + D/(D+E)×rD×(1−t)」。中小企業の評価では流動性・規模リスクのサイズプレミアムを3〜10%加算するのが一般的で、実務的なレンジは7〜15%。

「サイズプレミアム5%を加味し、WACC 11%でDCF算定」。

CAPM(資本資産価格モデル)

きゃっぷえむ / Capital Asset Pricing Model

株主資本コストを「リスクフリーレート + β × マーケットリスクプレミアム」で算定するモデル。10年国債利回り(Rf)、類似上場銘柄のβ、マーケットリスクプレミアム5〜7%が一般的な前提。中小M&Aでは別途サイズプレミアムを加算する。

「Rf 1%、β 0.9、MRP 6%、サイズプレミアム5%で株主資本コスト11.4%」。

β(ベータ)

べーた

個別銘柄の市場感応度を示す指標。市場全体が1%動いた時に当該銘柄が何%動くかを示す。β=1なら市場と同水準、β=1.5なら市場の1.5倍の変動率。非上場企業のβは類似上場企業から推計する。

「IT業種の類似上場銘柄のβ中央値1.1を採用」。

FCF(フリーキャッシュフロー)

えふしーえふ / Free Cash Flow

「税引後営業利益 + 減価償却費 − 設備投資 ± 運転資本増減」で算定する、事業から生み出される自由に使えるキャッシュフロー。DCF法の評価対象として用いられる。

「年間FCF 1億円、5年分のDCF評価値は約4億円(WACC 10%)」。

ターミナルバリュー(継続価値)

たーみなるばりゅー / Terminal Value

DCF法で予測期間終了後の継続価値。「TV = FCFn+1 ÷ (WACC − g)」のゴードン成長モデルで算定するのが一般的(gは永久成長率)。DCF評価額の50〜80%を占めることが多い重要要素。

「予測期間5年後のTVを永久成長率1%で算定」。

永久成長率

えいきゅうせいちょうりつ

DCF法のターミナルバリュー算定で用いる、予測期間終了後の永続成長率。長期GDP成長率・インフレ率を参考に0〜2%で設定するのが一般的。WACCを上回ってはならない(数学的に成立しない)制約がある。

「永久成長率1%、WACC 10%でTV算定」。

マルチプル(倍率法)

まるちぷる / Multiple Valuation

EV/EBITDA、PER、PBR等の倍率を類似上場企業・類似取引から導出し、対象会社の指標値に乗じて企業価値を算定する手法。マーケットアプローチの代表手法で、客観性が高く中小M&A実務の主役の一つ。

「業種別EV/EBITDA倍率5倍を採用したマルチプル評価」。

PER(株価収益率)

ぴーいーあーる / Price Earnings Ratio

株価を1株当たり純利益(EPS)で除した倍率。「株価が利益の何倍で評価されているか」を示す。上場企業評価で広く使われるが、M&A実務では資本構成・税制の影響を受けないEV/EBITDAが好まれる。

「上場同業のPER中央値15倍を参照」。

PBR(株価純資産倍率)

ぴーびーあーる / Price Book-value Ratio

株価を1株当たり純資産(BPS)で除した倍率。資産価値に対する評価倍率を示す。資産集約型業種(不動産・銀行等)で活用されるが、収益性を反映しないため事業会社の評価では補助的位置付け。

「銀行・不動産業のPBRは1倍前後で評価されることが多い」。

のれん

のれん / Goodwill

M&Aで譲渡対価が取得した純資産の時価を上回る差額。買い手の取得時に無形固定資産として計上される。日本基準では原則20年以内に定額償却(IFRSは原則非償却で減損テスト)。会計上ののれんと税務上の資産調整勘定は計上要件が異なる。

「譲渡対価5億円、時価純資産3億円なら、のれん2億円が買い手に計上」。

シナジー

しなじー / Synergy

M&Aによる「1+1>2」の付加価値効果。コストシナジー(重複費用削減・調達統合)、レベニューシナジー(クロスセル・顧客基盤拡大)、財務シナジー(資金調達コスト低減)等。買い手が想定するシナジー額がプレミアム支払いの原資となる。

「クロスセル想定で年間1億円のレベニューシナジーを試算」。

純資産法

じゅんしさんほう

「時価純資産 = 時価資産 − 時価負債」で企業価値を算定するコストアプローチの代表手法。事業の収益性を反映しないため、清算予定企業・持株会社・赤字企業・創業間もない企業の評価に向く。中小M&Aでは下限値の参照に用いられる。

「不動産保有比率が高い会社は純資産法で評価」。

時価純資産

じかじゅんしさん

貸借対照表上の純資産(簿価)を時価ベースに修正したもの。土地・有価証券の含み損益、退職給付債務、簿外債務、不良在庫等を反映する。年買法・純資産法の計算基礎。

「土地の含み益5千万円、退職給付債務未認識1億円を反映した時価純資産」。

修正純資産法

しゅうせいじゅんしさんほう

簿価純資産に資産・負債の時価評価差額を加味して企業価値を算定する手法。純資産法の精緻化版で、清算価値ではなく継続前提での再評価を行う点が清算価値法と異なる。

「修正純資産法で土地・有価証券の含み益を反映」。

配当還元法

はいとうかんげんほう

将来配当の現在価値で株式価値を算定する手法。少数株主向け(同族会社の非上場株式評価で国税庁が定める方式の一つ)。経営権を持たない株主の評価としては合理的だが、支配株主の評価には用いない。

「同族会社の少数株主からの株式買取で配当還元方式を採用」。

類似業種比準方式

るいじぎょうしゅひじゅんほうしき

国税庁が非上場株式評価で定める方式の一つ。類似業種の上場企業の株価・配当・利益・純資産を基準に、対象会社の指標と比較して評価額を算定する。事業承継税制の適用判定や相続税評価で用いられる。

「事業承継時の株式評価で類似業種比準方式を適用」。

純資産価額方式

じゅんしさんかがくほうしき

国税庁の非上場株式評価方式の一つ。会社の純資産(時価評価)を発行済株式数で除して1株当たり評価額を算定する。資産価値が大きい会社の相続税評価で用いられる。

「不動産保有比率の高い会社は純資産価額方式での評価が中心」。

正常収益力

せいじょうしゅうえきりょく / Normalized EBIT

決算書上の営業利益・EBITDAを、役員報酬・節税目的の私的経費・一時要因・関連会社取引等で正規化した収益力。年買法・EV/EBITDA倍率法で評価対象とすべき本来の利益。中小M&AのQofE分析の中核。

「役員報酬の正常化で営業利益+2,000万円を反映した正常収益力」。

プレミアム

ぷれみあむ / Premium

取引価格が公正価値(フェアバリュー)を上回る部分。買い手のシナジー期待や経営権取得対価として支払われる。上場会社のTOBプレミアムは過去数ヶ月株価の平均に対して20〜40%が一般的な水準。

「直近1ヶ月平均株価に対し30%プレミアムでTOB価格を設定」。

コントロールプレミアム(支配権プレミアム)

こんとろーるぷれみあむ / Control Premium

経営権取得に伴うプレミアム。対象会社の経営方針決定・取締役選任・配当政策決定権を獲得することの対価。少数株主の株式評価には織り込まれない。

「支配権取得のコントロールプレミアムとして純資産価額に20%上乗せ」。

マイノリティディスカウント

まいのりてぃでぃすかうんと / Minority Discount

少数株主が保有する株式の評価で、経営権を持たないことを理由とするディスカウント。コントロールプレミアムの裏返しの概念。

「少数株主からの買取交渉でマイノリティディスカウント15%を反映」。

流動性ディスカウント

りゅうどうせいでぃすかうんと

非上場株式の評価で、市場での売却・換金が困難なことを理由とするディスカウント。中小M&Aでの評価倍率が上場企業より低くなる主因の一つ。

「非上場の流動性ディスカウントで上場比 20〜30% 低い倍率を採用」。

業種別マルチプル

ぎょうしゅべつまるちぷる

業種ごとに観察されるEV/EBITDA倍率・PER倍率等のレンジ。中小M&AではIT・SaaS 4〜8倍、医療・介護 4〜8倍、製造 2〜4倍、建設 2〜5倍、小売・EC 2〜6倍、飲食・サービス 2〜4倍、物流 3〜5倍、卸売 2〜4倍、教育 3〜6倍が目安。

「IT業種の中小マルチプルは4〜8倍が一般的レンジ」。

企業価値・評価 に関するよくある質問

Q.中小M&Aで最も使われる企業価値算定手法は?
年買法(時価純資産 + 営業利益 × 3〜5年)が最も多用されます。シンプルで経営者に直感的、貸借対照表と損益計算書から計算可能なため、中小企業でも数字を作りやすい点が普及の理由です。次いでEV/EBITDA倍率法が業種別の相場感把握に使われます。DCF法は将来予測の主観性が高く、中小M&Aでは補助的位置付けです。実務上は複数手法でクロスチェックするのが標準です。
Q.EV/EBITDA倍率と年買法のれん年数の関係は?
概ね「EV/EBITDA倍率 ÷ 2 = 年買法ののれん年数」が目安です。例えばEV/EBITDA 6倍ならのれん年数3年程度。これは「EBITDA は営業利益+減価償却費 ≒ 営業利益 × 2程度(業種により幅あり)」という近似に基づく実務的な変換です。両手法の結果が大きく乖離する場合は、設備投資の大きさや特殊な収益構造が影響している可能性があります。
Q.中小企業の評価倍率が上場企業より低いのはなぜ?
主に4つの理由があります。(1)投資回収期間の差(中小は3〜5年期待、上場は8〜10年でも許容)、(2)流動性ディスカウント(非上場株式は換金が困難)、(3)規模リスク(業績変動・取引先依存度が大手より高い)、(4)情報の非対称性(開示が限定的)。これらをまとめて「サイズプレミアム」として、DCF法ではWACCに3〜10%加算するのが一般的です。
今井 健太郎
監修
今井 健太郎(株式会社KI Strategy 代表取締役)
早稲田大学政治経済学部卒。野村総合研究所を経て、2016年に株式会社KI Strategyを設立。M&Aアドバイザリー、デューデリジェンス(BDD/ITDD)、PMI支援を専門とする。情報経営イノベーション専門職大学(iU)客員教授。プロフィール詳細 →

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