1. 個人事業主の事業譲渡とは — 法人M&Aとの違い
個人事業主・フリーランスの事業譲渡は、屋号・顧客・取引先・備品・在庫・ノウハウ等を「個別資産の譲渡契約」の形で買い手に譲渡する方法です。法人M&Aの「株式譲渡」は使えませんが、事業譲渡スキームで承継が成立します。
| 項目 | 個人事業主の事業譲渡 | 法人M&A(株式譲渡) |
| 譲渡対象 | 事業に紐づく個別資産・負債 | 会社(法人格)そのもの |
| 許認可 | 原則として買い手が新規取得 | 原則として継続 |
| 契約・取引先 | 個別に承諾が必要 | 原則として継続(CoC条項に注意) |
| 従業員 | 再雇用契約が必要 | 原則として継続 |
| 税務 | 資産種別ごと(営業権・備品=総合課税の譲渡所得/棚卸資産=事業所得/土地建物=分離課税) | 申告分離課税20.315% |
| 負債承継 | 個別合意ベース | 原則として包括承継 |
2. 法人成り後譲渡 vs 直接事業譲渡
譲渡額・時間軸によって、法人成りを経由した株式譲渡が有利か、個人事業のまま直接事業譲渡するかが変わります。
| 項目 | 直接事業譲渡 | 法人成り後譲渡 |
| 譲渡所得税率 | 総合課税(営業権等の長期譲渡所得は2分の1課税。最高でも実効約27.5%) | 申告分離課税20.315% |
| 準備期間 | 3〜6ヶ月 | 法人成り+運営2年+譲渡で約3年 |
| 法人成りコスト | — | 設立費用(株式会社 登録免許税15万円〜/合同会社6万円〜)・社保加入義務 |
| 適合譲渡額 | 500万円以下 | 1,000万円超 |
| 許認可承継 | 原則再取得 | 原則継続 |
1,000万円超の譲渡見込みなら法人成り検討の価値があります。ただし、法人成りには税理士費用・決算費用等のランニングコストもかかるため、税理士・FA・KI Strategy等の専門家との早期相談が重要です。
3. 譲渡所得課税と税務の論点
個人事業主が事業譲渡する場合、譲渡対価は資産種別ごとに異なる税区分が適用されます。
- 営業権(のれん)部分:譲渡所得(総合課税、50万円特別控除あり)
- 機械・備品の譲渡益:譲渡所得
- 棚卸資産:事業所得
- 土地建物:譲渡所得(分離課税、長期20%/短期39%。いずれも復興特別所得税別途)
- 売掛金等:原則として譲渡対象から除外(個別管理)
消費税は譲渡側が課税事業者(基準期間の課税売上1,000万円超等)の場合に課税。ただし課税対象は課税資産(のれん・建物・備品・棚卸資産・商標権等)で、土地・売掛金・有価証券は非課税です。
4. のれん代(営業権)の妥当な水準
個人事業主の事業譲渡では「年買法」が多用されます。
- 年買法(営業権算定):営業利益の2〜5年分
- 飲食店:営業利益の2〜3年分
- WEB系・SaaS:高成長業態はEBITDA等のマルチプルで上振れする場合も(年買法とは別手法。いずれも個別評価による目安)
- 士業・個人診療所:年商の0.5〜1倍 + 営業利益2〜3年分
- 廃業前駆け込み:1〜2倍程度
例:飲食店で年営業利益300万円 → のれん600〜1,500万円が目安。バトンズ・トランビ等のM&Aマッチングプラットフォーム成約相場も参考になります。
5. 契約・許認可の引継ぎ
許認可
許認可は「個人事業主に紐付く」ものが多く、原則として買い手が新規取得し直す必要があります。
- 飲食店営業許可(保健所)
- 宅建業免許(都道府県知事 or 国土交通大臣)
- 建設業許可
- 運送業許可(一般貨物自動車運送事業)
- 美容師・理容師個人免許 → 営業所単位の届出
- 古物商許可
契約
取引先・顧客との契約は事業譲渡契約書で「契約上の地位の移転」を定めますが、相手方の承諾が個別に必要です。賃貸借契約・リース契約・SaaS契約等のCoC(Change of Control)条項にも注意。事前に主要契約のリストアップと譲渡前承諾取得が重要です。
6. 屋号・商標・SNSアカウントの承継
屋号は事業譲渡契約で「商号の譲渡」として承継できます。買い手側の屋号変更届出(個人事業主の場合は所轄税務署)または法人の場合は登記変更が必要。
商標登録されていない屋号は事業譲渡契約のみで承継可能ですが、Googleレビュー・SNSアカウント・取引先名簿への屋号認知度も実質的な無形資産として価値があります。Instagram・X・Googleビジネスプロフィール等のアカウント承継は、各プラットフォームの利用規約に従って譲渡可否が異なるため、譲渡契約書に明記しておくのが安全です。
7. 事業譲渡 vs 廃業の比較
| 項目 | 事業譲渡 | 廃業 |
| 譲渡対価 | のれん+資産価額 | ゼロ(資産売却益のみ) |
| 従業員雇用 | 承継可能 | 解雇・退職金支払い |
| 顧客対応 | サービス継続 | 事業終了 |
| 原状回復費 | 不要(買い手承継) | 賃貸物件の原状回復義務 |
| 在庫処分 | 譲渡対象に含む | 処分損 |
年営業利益200万円以上ある事業なら事業譲渡を第一選択肢に検討する価値が高いです。詳細は廃業 vs M&A 完全比較参照。
8. 買い手の探し方
- M&Aマッチングプラットフォーム:バトンズ、トランビ、relay — 個人事業案件多数、手数料低
- 事業引継ぎ支援センター(公的):無料コーディネーター派遣
- 地域金融機関:事業承継支援部門
- M&A仲介・FA:小規模案件は手数料相談可能
- 独立系コンサル(KI Strategy等):交渉・契約・税務まで一気通貫
- SNS発信・業界知人リファラル:個人事業ではこちらが成約しやすい
9. 事業譲渡の流れと所要期間
- 譲渡準備(決算書・顧客リスト・契約一覧整理)2-4週
- 買い手探し・面談 1-3ヶ月
- 基本合意 1-2週
- デューデリジェンス 2-4週
- 事業譲渡契約締結 1-2週
- クロージング・引継ぎ 1-2ヶ月
全体で3〜6ヶ月が標準的。営業中の店舗・サービスは引継ぎ期間中の運営継続が前提です。
10. 活用できる補助金
- 事業承継・M&A補助金 専門家活用枠:仲介・FA・税理士等の専門家費用が最大600万円補助(個人事業主も対象)
- 事業引継ぎ支援センター:無料コーディネーター派遣
- 中小企業活性化協議会:再生計画含む包括支援
- 地域経済牽引事業計画:法人税軽減等
M&A支援機関登録制度に登録された専門家(登録FA・仲介)への手数料が補助対象です。詳細は事業承継・M&A補助金14次公募 採択結果分析参照。
11. KI Strategyのアプローチ
KI Strategyは独立系コンサルティング会社として、個人事業主の事業譲渡においても以下を提供します。
- 譲渡シナリオ設計(直接譲渡 vs 法人成り後譲渡の試算)
- のれん代の妥当性算定・税務最適化
- 契約・許認可の引継ぎ整理
- 買い手探索・条件交渉支援
- 事業譲渡契約書ドラフト・法務確認
- 補助金申請設計
12. よくある質問(FAQ)
Q.個人事業主でも事業譲渡(M&A)はできますか?
はい、可能です。屋号・顧客・取引先・備品・在庫・ノウハウ等を「個別資産の譲渡契約」の形で買い手に譲渡します。法人M&Aの株式譲渡は使えませんが、事業譲渡スキームで承継が成立します。
Q.法人成り後に株式譲渡した方が有利ですか?
案件規模・売却タイミング・買い手の希望によります。1,000万円超の譲渡見込みなら法人成り検討の価値あり、500万円以下なら直接譲渡が一般的です。詳細は本ガイド第2章参照。
Q.個人事業主の事業譲渡の税務は?
譲渡対価は資産種別ごとに異なる税区分が適用されます。営業権(のれん)は譲渡所得(総合課税、50万円特別控除)、棚卸資産は事業所得、土地建物は譲渡所得(分離課税)。詳細は本ガイド第3章参照。
Q.のれん代(営業権)はいくらが妥当ですか?
年買法で営業利益の2〜5年分が目安。業種・地域・顧客集中度で増減し、WEB系・SaaSは5〜10倍まで上振れ、廃業前駆け込み譲渡では1〜2倍程度に落ちる場合も。詳細は本ガイド第4章参照。
Q.契約・許認可は引き継げますか?
許認可は「個人事業主に紐付く」ものが多く、原則として買い手が新規取得し直す必要があります。契約は事業譲渡契約書で「契約上の地位の移転」を定めますが、相手方の承諾が個別に必要。詳細は本ガイド第5章参照。
Q.屋号は引き継げますか?
事業譲渡契約で「商号の譲渡」として承継可能。商標登録されていない屋号も契約のみで承継できますが、Googleレビュー・SNSアカウント等の認知度も無形資産として評価対象です。詳細は本ガイド第6章参照。
Q.事業譲渡と廃業ではどちらが有利ですか?
年営業利益200万円以上ある事業なら事業譲渡を第一選択肢に検討する価値が高いです。詳細は
廃業 vs M&A 完全比較参照。
Q.買い手はどこで見つかりますか?
M&Aマッチングプラットフォーム(バトンズ、トランビ、relay)、事業引継ぎ支援センター(無料)、地域金融機関、M&A仲介・FA、独立系コンサル、SNS発信からの紹介等が一般的です。
Q.事業譲渡の流れと所要期間は?
①譲渡準備 ②買い手探し ③基本合意 ④DD ⑤事業譲渡契約 ⑥クロージングの6ステップで全体3〜6ヶ月が標準的。詳細は本ガイド第9章参照。
Q.個人事業主M&Aで活用できる補助金は?
事業承継・M&A補助金の専門家活用枠最大600万円(個人事業主も対象)、事業引継ぎ支援センター(無料)、中小企業活性化協議会等が活用可能。詳細は本ガイド第10章参照。
監修
今井 健太郎(株式会社KI Strategy 代表取締役)
早稲田大学政治経済学部卒。大手シンクタンクを経て、2016年に株式会社KI Strategyを設立。M&Aアドバイザリー、デューデリジェンス(BDD/ITDD)、PMI支援を専門とする。情報経営イノベーション専門職大学(iU)客員教授。
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