GLOSSARY · M&A契約用語

契約・法務 用語集 — 18語を実務例付きで解説


M&Aの主要な契約類型と契約条項の用語を整理します。詳細な手続きの流れは株式譲渡の流れもご参照ください。

最終更新: 2026-05-13 / 監修: 今井 健太郎(株式会社KI Strategy 代表取締役)

NDA(秘密保持契約)

えぬでぃーえー / Non-Disclosure Agreement, CA (Confidentiality Agreement)

M&A交渉の前段階で締結する、開示情報の秘密保持を約束する契約。社名を含むIM開示の前提となる。秘密情報の範囲、保持期間(通常2〜3年)、例外事由(既知情報・第三者からの正当取得等)を規定。

「ノンネーム提示後、興味を示した買い手とNDAを締結してからIM開示」。

LOI(意向表明書)

えるおーあい / Letter of Intent

買い手が売り手に対して、買収希望の意向と主要条件を表明する書面。法的拘束力は限定的(独占交渉条項・秘密保持条項のみ拘束力を持たせるのが一般的)。買い手選定のスクリーニングに用いられる。

「複数の買い手候補からLOIを受領し、最も条件の良い1社と基本合意へ進む」。

MOU(基本合意書)

えむおーゆー / Memorandum of Understanding

M&Aの主要条件(譲渡対価・スキーム・スケジュール・独占交渉権等)を売り手と買い手で書面化した合意書。法的拘束力は限定的だが、DD・最終契約交渉の出発点となる。仲介手数料の中間報酬は多くの場合この時点で発生。

「基本合意書(MOU)でDDスケジュールと独占交渉権1ヶ月を規定」。

SPA(株式譲渡契約書)

えすぴーえー / Stock Purchase Agreement, Share Purchase Agreement

株式譲渡の主契約書。譲渡対象株式・対価・支払方法・クロージング条件・表明保証・誓約事項・補償条項・競業避止義務・経営者保証の取扱い・紛争解決条項等を詳細に規定。中小M&Aでも数十ページに及ぶ。

「DD結果を踏まえてSPAを最終調整、表明保証と補償の範囲を交渉」。

APA(事業譲渡契約書)

えーぴーえー / Asset Purchase Agreement

事業譲渡の主契約書。譲渡対象資産・契約・従業員・対価・クロージング条件等を規定。SPAと異なり、譲渡対象を個別に特定する必要があり、契約・許認可・雇用の個別承継手続きが付随する。

「APAで譲渡対象資産・除外資産・引継ぎ従業員を明記」。

表明保証

ひょうめいほしょう / Representations and Warranties

売り手が買い手に対して、対象会社の財務・法務・税務・労務・許認可・契約・知財・環境等の状態が事実と相違ないことを表明し保証する契約条項。違反が発覚すると損害賠償・補償請求・場合により契約解除の対象となる。

「未払残業代の不存在を表明保証、違反時の補償上限を譲渡価額の50%に設定」。

誓約事項(Covenants)

せいやくじこう

契約後の当事者の約束事項。プレ・クロージング誓約(クロージングまでの善管注意義務、現状維持義務等)とポスト・クロージング誓約(競業避止、引継ぎ協力等)に分かれる。

「プレ・クロージング誓約として、SPA締結後の重要契約締結に買い手同意を要件化」。

補償条項(Indemnification)

ほしょうじょうこう

表明保証違反・誓約事項違反等により買い手が被った損害を、売り手が補償する義務を定める条項。補償上限(譲渡価額の30〜100%)、補償期間(一般項目1〜2年・税務5〜7年・環境5〜10年or無期限)、免責閾値(バスケット条項)を規定。

「補償上限を譲渡価額の50%、補償期間を一般項目2年・税務7年で合意」。

バスケット条項

ばすけっとじょうこう / Basket / Threshold Clause

補償請求の免責閾値を定める条項。個別の損害額または合計損害額が一定額を超えた場合のみ補償請求可能とする。Tipping Basket(閾値超過時に全額対象)、Deductible(閾値超過分のみ対象)の2類型がある。

「合計損害額が譲渡価額の1%を超えた場合のみ補償請求可(Deductible方式)」。

競業避止義務

きょうぎょうひしじむ / Non-compete Clause

売り手が一定期間・一定地域で買収対象事業と競合する事業を行わないことを約束する契約条項。期間2〜5年、地域は対象会社の事業エリアが一般的。憲法上の職業選択の自由との関係で、合理的範囲を超える設定は無効リスクがある。

「競業避止義務を譲渡後3年・対象会社の主要営業エリアで設定」。

勧誘禁止条項(Non-Solicit)

かんゆうきんしじょうこう

売り手が買収後一定期間、対象会社の従業員・顧客に対する引き抜き・勧誘を禁止する条項。競業避止義務とセットで規定される。

「勧誘禁止条項を譲渡後2年で設定し、キー人材の流出を防止」。

クロージング条件(CP)

しーぴー / Conditions Precedent

クロージング実行の前提となる条件群。譲渡承認の取得、表明保証の真実性、誓約事項の遵守、金融機関・主要取引先の同意取得、許認可の維持・移転、競争法上の承認、重大な悪影響の不発生(MAE)等を定める。

「主要取引先10社からのCoC同意取得をCPとして設定」。

MAC / MAE条項

まっく / Material Adverse Change / Material Adverse Effect

SPA締結後、クロージング前に対象会社に重大な悪影響(業績の急悪化・大規模訴訟・事業継続不能事由等)が発生した場合に、買い手がクロージング義務を免れる条項。発動には厳格な要件があり、一時的・業界全体の影響は除外されるのが一般的。

「主要取引先の倒産発生時にMAE条項発動の可否を争う」。

CoC条項(チェンジ・オブ・コントロール)

しーおーしー / Change of Control

支配権変動時の契約解除権・通知義務等を定める条項。M&A時に対象会社の重要取引先・金融機関の契約にCoC条項が含まれている場合、買い手は同意取得が必要。見落とすと譲渡後に主要取引を失うリスクがある。

「主要取引先10社のCoC条項を洗い出し、譲渡前に同意を取得」。

表明保証保険(W&I保険)

ひょうめいほしょうほけん / Warranty & Indemnity Insurance

売り手の表明保証違反による補償義務を保険でカバーする保険商品。保険料は譲渡価額の1〜3%程度。売り手の補償リスクと買い手の回収リスクを共に軽減でき、PEファンドが買い手の案件では標準的リスク管理ツール。

「W&I保険を付保し、売り手の補償上限を実質ゼロに」。

独占交渉権

どくせんこうしょうけん / Exclusivity

MOU・基本合意後の一定期間、売り手が他の買い手候補と交渉しないことを約束する権利。買い手のDD投資のインセンティブを保護する。期間1〜3ヶ月が一般的。

「基本合意で買い手に独占交渉権を3ヶ月付与」。

エスクロー

えすくろー / Escrow

譲渡対価の一部を第三者(信託銀行等)に預託し、補償請求や条件達成に応じて売り手に支払う仕組み。買い手の補償回収リスクを軽減し、売り手のキャッシュ即時受領を一部制限することで利害を調整する。

「譲渡対価の10%を1年間エスクローに預託」。

アーンアウト

あーんあうと / Earn-out

譲渡対価の一部を、買収後の業績に連動して追加支払いする契約スキーム。売り手と買い手の業績見込みの乖離を埋め、買収後の経営継続インセンティブを提供する。中小M&Aでは買収後2〜3年の業績連動が一般的。

「基本対価3億円+業績連動アーンアウト最大1億円」。

契約・法務 に関するよくある質問

Q.SPAで最も交渉が難航する条項は?
表明保証と補償条項が最大の論点になることが多いです。売り手は補償リスクの限定(上限・期間・除外事由)を求め、買い手はDD後に発見できなかった隠れたリスクへの保護を求めるため、利害が真っ向から対立します。中小M&Aでは表明保証保険(W&I保険)の活用で双方のリスクを軽減する事例が増えています。
Q.競業避止義務の合理的範囲は?
期間2〜5年、地域は対象会社の主要営業エリアが一般的な範囲です。職業選択の自由(憲法22条)との関係で、合理性を欠く設定(10年・全国一律等)は裁判で無効とされるリスクがあります。期間・地域・対象事業範囲のバランスで合理性を判断する必要があり、特殊技術や顧客基盤の独自性が高い案件では長期設定も認められやすくなります。
Q.CoC条項の見落としで失敗する事例は?
主要取引先・金融機関・賃貸借契約・ライセンス契約等にCoC条項が含まれていることを見落とし、譲渡後に契約解除・取引停止に至るケースがあります。法務DD(LDD)でCoC条項を網羅的に洗い出し、必要な同意取得をクロージング条件(CP)として設定するのが標準的な対応です。
今井 健太郎
監修
今井 健太郎(株式会社KI Strategy 代表取締役)
早稲田大学政治経済学部卒。野村総合研究所を経て、2016年に株式会社KI Strategyを設立。M&Aアドバイザリー、デューデリジェンス(BDD/ITDD)、PMI支援を専門とする。情報経営イノベーション専門職大学(iU)客員教授。プロフィール詳細 →

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