100万円で買える会社は存在します。ただし株式が100万円と会社の価値が100万円は別物です。価格帯別(〜100万/〜500万/〜1,000万円)に買える事業の実態、個人が探す3つの経路、運転資金・簿外債務・許認可など株式代金の裏にあるコストと失敗パターンを買い手側の実務から整理しました。
「100万円で買える会社」と検索している方の多くは、半信半疑だと思います。会社というものが100万円で手に入るなら、なぜ皆が買わないのか。答えは単純で、100万円で買えるのは「会社の株式」であって、「会社の中身がすべて100万円の価値」という意味ではないからです。
会社の値段には二つの層があります。事業そのものの価値(企業価値)と、そこから借入金などの負債を差し引いた株主の取り分(株式価値)です。売上3,000万円、借入金2,000万円、純資産がほぼゼロの町工場を想像してください。事業として見れば設備も取引先もある。しかし負債を引いた株主の取り分はほとんど残らないので、株式の値段は限りなく低くなります。100万円という価格は、この「負債込みで引き受けてくれるなら株はほぼ譲る」という状態を表していることが少なくありません。買い手は100万円と引き換えに、2,000万円の借入金の返済義務も引き受けます。企業価値と株式価値の関係、算定の3手法は企業価値算定の方法で解説しています。
もう一つの類型は、負債はないが売上も小さい事業です。個人が運営するWebサイト、席数10席の飲食店、経営者一人の美容室。これらは事業の価値そのものが数十万〜数百万円で、価格の低さがそのまま規模の小ささを表しています。「安く買える」のではなく「小さいから安い」わけです。どちらの類型かを最初に見分けることが、100万円の案件を評価する第一歩になります。
売却希望価格がどの帯にあるかで、案件の顔ぶれは変わります。以下は、プラットフォーム運営会社の公開記事と、当社が実務で目にする範囲を整理したものです。具体的な件数や比率は各プラットフォームの掲載状況によって日々変わるため、あくまで傾向として読んでください。
| 価格帯 | よくある事業 | 価格が低い主な理由 | 買い手に求められること |
|---|---|---|---|
| 〜100万円 | ブログ・アフィリエイトサイト・小規模ECなどWeb系、個人経営の飲食・美容、民泊、レンタルスペース | 事業規模が小さい/運営者が手放したい/収益が減少傾向 | 自分で運営する時間と技能。買収後に自分の労働で価値を作る覚悟 |
| 〜500万円 | 従業員数名の飲食店・サロン・小売、小規模製造・加工、地方の宿泊施設 | 後継者不在・経営者の高齢化/設備が古い/立地に依存 | 運転資金の手当て。従業員と取引先を引き継ぐ実務力 |
| 〜1,000万円 | 黒字の小規模法人、許認可を持つ事業(建設・運送・介護など)、地域で固定客のある店舗 | 借入金を引き継ぐ前提で株式価値が圧縮されている場合が多い | 財務の読解力。簿外債務・許認可承継の確認。金融機関との交渉 |
価格帯ごとの事業類型は、トランビ「10万円・100万円で買える会社は本当にある?」(同社M&Aコラム)の記述と当社の実務経験をもとに整理した傾向です。同社はプラットフォーム運営者であり、掲載案件に関する数値は同社の公表値です。
売り手側の母集団を見ると、この価格帯の案件が今後も減らない理由が分かります。帝国データバンクによると、2025年に全国で休廃業・解散した企業は67,949件で、過去10年で2番目に多い水準でした。そのうち資本金「100万〜1,000万円未満」の企業が44.7%を占め、代表者の平均年齢は71.5歳と過去最高、80代以上が24.4%に達しています。直近の決算が黒字だった企業は49.1%で、初めて5割を下回りましたが、それでも約半数は黒字のまま廃業しています(帝国データバンク「全国企業『休廃業・解散』動向調査(2025年)」2026年1月)。黒字で、小規模で、経営者が70代以上。売り手になり得る会社は、毎年数万社の規模で市場の外に消えているということです。総務省・経済産業省「経済センサス‐活動調査」(令和3年)の企業等数を当サイトで集計すると、全国約368万の企業等のうち法人でない個人経営が約162万(43.9%)を占めており、小さな事業の裾野そのものが厚いことも背景にあります。この比率は地域差が大きく、東京都の30.4%から和歌山県の59.1%、沖縄県の60.8%まで開きがあります(同センサス・当サイト集計)。地方ほど個人経営の小さな事業が多く、買い手の少なさと相まって低価格の案件が出やすい構造です。県ごとの企業数・業種構成は47都道府県別の事業承継情報で確認できます。
100万円台の案件は、大手のM&A仲介会社にはまず持ち込まれません。仲介会社の最低報酬は数千万円が一般的で、案件規模が合わないからです。個人や小規模法人の買い手が実際に使う経路は三つあります。
一つ目はM&Aプラットフォーム(マッチングサイト)です。売り手は無料で掲載でき、買い手が費用を負担する仕組みで、バトンズは買い手が成約価格の2%(最低35万円〜、税別)を成約時に支払い、トランビは買い手が月額3,980円(税別)からのプランに加入する方式です(各社公式の料金ページ、2026年8月時点)。案件数が最も多く、価格帯で絞り込める反面、売り手の情報の精度は売り手自身の開示に依存します。サービスごとの特徴と向き不向きはM&Aプラットフォーム比較に譲り、本ページでは深入りしません。
二つ目は公的窓口です。各都道府県の事業承継・引継ぎ支援センターは、後継者を探す小規模事業者と、事業を引き継ぎたい個人をつなぐ「後継者人材バンク」を運営しています。相談は無料で、案件の規模はプラットフォームより小さいものが多く、創業志向の個人と相性がよい経路です。公的窓口の使い方は公的な無料相談窓口の使い分けで整理しています。
三つ目は知人・取引先・地域の縁です。統計に表れませんが、小規模事業の承継では今も主流の経路です。廃業を考えている店主に常連客が声をかける、取引先の社長が引退を口にしたときに手を挙げる。価格は相対で決まり、プラットフォームより安くまとまることも、逆に相場感がないまま高くつくこともあります。
株式の代金が100万円でも、会社を引き継いで回し始めるまでに必要な資金はその何倍にもなります。買収を検討するときは、価格ではなく「初年度に出ていく現金の合計」で予算を組んでください。
運転資金が最初の壁です。仕入れ、家賃、人件費は買収の翌日から発生し、売上の入金は後からやってきます。飲食店なら数か月分、製造業なら受注から入金までのサイクル分の現金が必要です。前の経営者が自分の貯金で回していた店ほど、帳簿に運転資金の実態が見えません。
簿外債務は、価格の安い案件ほど見落とされやすい項目です。未払いの残業代、社会保険料の未納、退職金の約束、リース契約の残債、税金の滞納。これらは貸借対照表に載っていないか、載っていても小さく見えます。株式譲渡で会社を丸ごと引き継ぐ場合、これらの債務もそのまま買い手のものになります。事業譲渡で必要な資産だけを選んで引き継ぐ方法もあり、どちらが適するかは株式譲渡の流れと個人事業の事業譲渡で確認してください。
許認可と契約の承継も見落とされます。飲食店営業許可、建設業許可、運送事業許可、介護事業の指定は、株式譲渡なら会社に紐づいて残りますが、事業譲渡では取り直しになる場合があります。店舗の賃貸借契約は、経営者が代わると貸主の承諾が必要な条項が入っていることが多く、承諾が得られなければ立地ごと失います。
売上の属人性は、数字に出ない最大のリスクです。常連客は前の店主についていたのか、店についていたのか。主要取引先は前の社長との付き合いで発注していたのか。経営者が代わった瞬間に売上の3割が消える案件は珍しくありません。これは買収前に前経営者と一緒に顧客を回り、引き継ぎ期間を契約に入れることでしか防げません。
資金面では、日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」が事業を承継・買収する側にも使えます。融資限度額は別枠7,200万円、返済期間は設備資金20年以内・運転資金10年以内(いずれも据置5年以内)で、経営者保証免除特例制度の併用が可能です(日本政策金融公庫 公式サイト、2026年8月確認)。100万円の株式代金より、運転資金と改装費を公庫融資で組む設計のほうが現実的なケースが多くあります。
以下は当社が買い手側の相談で実際に見聞きしてきた類型で、統計ではなく経験に基づくものです。共通しているのは、価格の安さに引っ張られて「なぜ安いのか」を最後まで確かめなかった点です。
一つ目は、負債の理解不足です。株式を100万円で取得した後、借入金2,000万円の返済と個人保証の引き継ぎを金融機関から求められて初めて事の重さに気づく。株式価値と企業価値の違いを知らないまま契約したケースです。
次に多いのが許認可の失効です。事業譲渡で飲食店を引き継いだが、営業許可は前の事業者名義で、開業までに保健所の再取得が必要だった。その間の家賃だけが出ていきました。
引き継ぎ期間の不在も繰り返し見る型です。前経営者が契約翌週に姿を消し、仕入先も顧客も一から関係を作り直すことになった。契約書に引き継ぎ期間と協力義務を入れていれば防げたものです。
見落とされがちなのが自分の労働力の見積もり違いです。Web系の事業を副業のつもりで買ったが、実際は前の運営者が週30時間かけて更新していた。買収後に更新が止まり、収益が半年で消えました。
うまくいった案件に共通するのは、その逆です。前経営者と3か月以上並走し、主要な取引先を一緒に回り、初年度の運転資金を株式代金の5倍以上用意していた。「安く買う」より「引き継ぐ」に力を割いた買い手が残ります。
案件の規模が小さいほど、専門家に払える費用も小さくなります。それでも、契約書の確認と簿外債務の点検だけは、税理士や中小企業診断士に数万円で見てもらう価値があります。買収後の100日間で何をすべきかはDD・PMIの100日実務にまとめています。当サイトを運営する株式会社KI Strategyは、買い手側のアドバイザリーも行う独立系コンサルティング会社です。100万円台の案件に専任のアドバイザーを付けるのは費用対効果が合わないことが多いため、その場合は本ページと公的窓口の活用をおすすめしています。一方で、数千万円規模の案件や、複数の事業を買い集めていく計画がある場合は、買い手側アドバイザリーでご相談ください。
事業承継・会社売却・M&Aの最適プロセスをご提案します。売り手側支援・買い手側支援・DD・PMIまで独立系コンサルティング会社として一気通貫。DD・PMI実務は姉妹サイトDD-AXで深掘り対応。
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